インバウンド(訪日客)の増加で鉄道やバスの混雑が課題となる中、空港の窓口や駅のロッカーに預けた荷物を宿泊先まで配送してくれるサービスが東京都内を中心に広がっている。国がオーバーツーリズム対策として進める「手ぶら観光」の手段として期待されるほか、旅行客にも身軽に動いてもらい、満足度を向上しようという狙いだ。(鈴木里奈、中村真暁)

トラックに積まれた荷物を下ろして仕分ける「エアポーター」のスタッフたち=東京都墨田区で

 墨田区内の倉庫で7月、手荷物配送サービス「エアポーター」(中央区)のスタッフ10人ほどが手際良く、スーツケースやカバンを行き先別に仕分けていた。ホテルの受付や空港の専用窓口に預けられた旅行客の手荷物で、この後、宿泊先などそれぞれの目的地に届けられる。スタッフの八幡広行さん(73)は、「お客さんの身になって運んでいる。コロナ下では荷物がほとんどなかったので、たくさん来るとうれしい」とほほ笑んだ。

◆取扱数、コロナ禍前の8倍に

 同社がこのサービスで取り扱う荷物は現在、月1万個以上。口コミで利用が広がり、取扱数はコロナ禍前の2019年から8倍に増えた。宿泊先と空港間での配送事業のほか、大きな荷物を持ち歩かずに街中観光したいという需要をとらえ、滞在中の宿から次の宿への配送も担うなどサービスもある。現在、都内では主要ホテルの半数と提携している。利用客からは「重い荷物がないと動きやすく、時間を有効に使える」などと好評だ。

空港に送る荷物を仕分けている倉庫で「オーバーツーリズムに絡む問題を解消したい」と話す泉谷邦雄社長=東京都墨田区で

 利用客が安心できるよう集荷時や配送時には預かった荷物の写真をメールなどで送る。今後は、海外の空港への直送を請け負うことも計画しているという。泉谷邦雄社長(37)は「荷物がなければ時間が生まれる。余裕がある旅で、日本の良さを知ってほしい」と話す。  鉄道の駅でもロッカーを利用した配送サービスが試行されている。西武鉄道の西武新宿駅と池袋駅、豊島園駅では今月から来年3月まで、遠隔操作やキャッシュレス決済ができる「スマートロッカー」に荷物を預けると、宿泊先に配送される「ピクラクポーターin東京」を実験中だ。

「ピクラクポーターin東京」を利用するときは、荷物を駅構内のロッカーに預ける=東京都新宿区で

 毎日午後2時までに荷物を預けると、配送員が原則7時までに指定の場所に配送。ロッカーの画面で、首都圏のホテル約500カ所から配送先を選ぶことができる。

◆通勤ラッシュ時の大きなスーツケースもなくなる?

 西武新宿駅のロッカーに荷物を一時保管していた大阪府の男子大学生(19)は、「スーツケースを持ち運ぶのは大変。サービスを使ってみたい」。インドネシア人の男性(21)も、「東京の電車やバスはいつも、混雑している。このサービスは安全で便利」と期待した。

荷物に取り付けられるタグ

 実験はスマートロッカーを製造する「SPACER」(中央区)と西武ホールディングス(豊島区)が実施。ニーズなどを検証するという。  観光庁の推計では、2024年の訪日客は過去最高の3500万人。旅行費の高騰などで国内旅行の需要も高まっており、首都圏でも公共交通機関の混雑が課題となっている。西武ホールディングス経営企画本部の青木啓史さん(37)は「通勤ラッシュ時に大きなスーツケースで電車に乗る訪日客もいる。手ぶら観光を当たり前にしていきたい」と話した。 

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