能登半島地震で被災した石川県七尾市で唯一のライブハウス兼ゲストハウス「FREEDOM」が復活した。和倉町で11年間営業した一軒家は全壊したが、ライブハウスを守りたい音楽家らの思いを乗せ、市中心部の商店街の一角に移転。マネジャーの石田智宏さん(45)は、能登で音楽を愛する人たちの居場所を守ろうと奮闘している。(大野沙羅)

ライブハウスを復活させた石田智宏さん=石川県七尾市大手町で

 七尾駅前の商店街「リボン通り」。新しい「FREEDOM3 Re:BORN」は建物の地下にある。暗幕で覆われた室内。中央奥のステージから、ギターの音色が響く。30~40人でいっぱいになるこぢんまりとしたライブハウスだ。

◆2013年に開業、軌道に乗ったのに被災

 石田さんは石川県志賀(しか)町出身。中高時代にバンドを組んでいたが、能登にはライブを開ける場所が少なく、金沢に通った。20代後半からバックパッカーとしてアジアなどを旅し、カンボジアでは貧困に苦しむ子どもの教育を支援。宿泊費が抑えられるゲストハウスで海外の人と交流した。  帰国後、和倉町でカフェを開き、2013年にライブハウス兼ゲストハウスを開業。能登地方で希少な存在だったためコロナ禍でも国内外から宿泊客が足を運び、月1回ほどライブを開いた。「ここ3、4年でやっと軌道に乗り、夢をかなえてくれた場所だった」

地震で全壊の被害を受けた「FREEDOM2」=石川県七尾市和倉町で(石田さん提供)

 地震当日も営業していた。石田さんは2度目の揺れで身の危険を感じて外へ飛び出した。建物は柱が傾き、一部の壁がはがれて外から丸見えに。解体する方針が決まった。「なんでこんなことになったんだろう」。片付けに通うたび、涙があふれた。周辺は断水が約3カ月と長期化した。

◆バンド仲間や地元客に励まされ新店舗へ

 励ましてくれたのはバンド関係者や宿泊客、地元客からのメッセージ。「またライブがしたい」「泊まりたい」。音響機材などが無事だったこともあり、再起を決意。新店舗への引っ越しの手伝いに、仙台市から駆けつけた人もいた。ライブハウスは元の半分ほどの大きさになった。それでも、7月下旬に開いた初ライブは「これまでで一番の盛り上がりだった」という。  防音などの改修を加え、店の2階で民泊を始める予定。いずれはゲストハウスとしても開業し、カンボジアを支援するために現地の若者の雇用も考えている。石田さんは「先が見えない不安の中で、皆に支えてもらった。今度はまちなかを盛り上げて、恩返ししていきたい」と意気込む。 

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