「割れ残り」か 再びのM7クラス地震に注意を
日向灘一帯で地震活動の分析を続けている京都大学防災研究所宮崎観測所の山下裕亮助教は、今後再び、マグニチュード7クラスの地震が起こる可能性を指摘しています。
8月8日、日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生。
宮崎県日南市で震度6弱、宮崎市や都城市、串間市、鹿児島県大崎町で震度5強を観測しました。宮崎市の宮崎港では50センチの津波を観測するなど、九州から四国の各地に津波が到達しました。
山下教授によりますと、今回の震源域の周辺では、過去にもマグニチュード7前後の地震が繰り返し発生しています(1931年11月 M7.1/1961年2月 M7.0/1996年10月 M6.9/1996年12月 M6.7)。
山下助教が注目しているのは、このうち1996年の活動です。
今回の地震では、1996年12月で地震が起きた場所もずれ動き、ひずみが解消された可能性がある一方、その北東側・1996年10月に地震が起きた場所は、地震もあまり起きておらず、「割れ残り」としてひずみの蓄積が続いている可能性があるということです。
この場所で、再びマグニチュード7クラスの地震が起きた場合、今回の地震よりも震源域が浅くなることから、今回よりも津波が高くなる可能性があるとしています。
M4~5の地震連発は「前震」の可能性も
日向灘で、1996年10月に起きたM6.9の地震は、夜遅くに起きましたが、その半日程前から、周辺でマグニチュード4~5の地震が立て続けに起きています。
山下助教は、この活動を「前震活動」だとみています。
一方、8月31日の午後10時すぎ、1996年10月ににずれ動いた領域内でマグニチュード4.7の地震が起き、宮崎市で震度3の揺れを観測しました。
山下助教は地震活動が続かないか、注視していたといいます。
結果的に、地震活動は活発にならず、大きな揺れも起きませんでしたが、今後も活動の変化には注意が必要だと考えています。
京都大学防災研究所宮崎観測所/山下裕亮 助教
「いったん“き憂”に終わったが、今後もマグニチュード4や5の地震が立て続けに起こると、その後大きな地震につながる可能性がある。ほとんどの地震は前震を伴わず、いきなり来ることの方が多いが、過去の事例として知っておいてほしい」
「日向灘」とは
今回、マグニチュード7.1の地震が起きた「日向灘」。陸のプレートの下に、フィリピン海プレートが沈み込んでいて、過去にも規模の大きな地震が繰り返し発生しています。
1662年には「外所地震」と呼ばれるマグニチュード7.6の地震が発生し、大きな津波の被害が出ました。近年の研究では、この地震は、さらに規模が大きな巨大地震だった可能性も指摘されています。
気象庁にデータが残っている1919年以降では、マグニチュード7クラスの地震が5回起きていて、先月8日の地震で6回目でした。気象庁は「今回の地震も繰り返し起きている地震の1つだ」と評価しています。
日向灘が「南海トラフに影響する可能性」指摘の研究も
これまでに、日向灘の地震が、南海トラフ巨大地震の引き金になったケースは確認されていません。
ただ、コンピューターシミュレーションでは、日向灘の地震が「南海トラフ地震の発生時期を早める」可能性も指摘されています。
政府の地震調査委員会のメンバー、JAMSTEC=海洋研究開発機構の堀高峰センター長が、過去に実施したシミュレーション。
日向灘でマグニチュード7.5の地震が発生すると、その数年後に、南海トラフで巨大地震が発生します。
日向灘での地震が、南海トラフ巨大地震の発生時期を早める可能性を示しているのです。
ただ、堀さんのシミュレーションで、南海トラフ巨大地震を引き起こした地震は、日向灘の北部(=青色)。南海トラフで巨大地震を起こすことが心配されているエリア(=紫色)に隣接している場所です。
一方、今回の地震が起きたのは、日向灘の南部(=赤色)。宮崎県日南市の沖合です。
さらに、地震の規模を示すマグニチュードも、シミュレーションでは7.5だったのに対し、今回は7.1で、エネルギーは4分の1だったことになります。
8日以降の地震活動や地殻変動のデータを見ても、特段の変化はないということです。
今回の地震の「南海トラフ巨大地震」への影響は?
南海トラフの巨大地震の可能性を検討する「評価検討会」でも、現時点では、巨大地震につながるような変化は確認されていないとされています。
気象庁によると、日向灘とその周辺では、8月8日~9月5日24時までに、マグニチュード2以上の地震があわせて249回(本震含む)発生していますが、日を追うごとに回数は減少傾向です。
震度1以上の回数は、▼地震当日の8月8日は8回、▼翌9日は11回に増えましたが、その後減少しています。
8月には、プレート境界付近を震源とする「深部低周波地震」と呼ばれるごく小規模な地震が、▽紀伊半島中部から北部、▽東海▽四国中部と西部でそれぞれ観測。これらの地震とほぼ同じ時期に周辺の複数の「ひずみ計」でわずかな地殻変動が観測されていて、「短期的スロースリップ」が原因とみられます。
「短期的スロースリップ」は、想定震源域のプレート境界が、数日から1週間程度かけてゆっくりとずれ動く現象ですが、過去、繰り返し観測されているとしています。
こうしたことを踏まえ検討会は「プレート境界の状況に特段の変化を示すような地震活動や地殻変動は観測されていない」とする評価結果をまとめました。
一方、南海トラフ沿いでは、いつ大規模地震が起きてもおかしくないことに留意し、日頃からの備えを続けるよう求めています。
検討会会長/平田直 東京大学名誉教授
「通常と異なる『ゆっくりすべり』が起きていないかは慎重に検討した。時間の経過で巨大地震が発生する可能性はふだん通りに戻ったが、たいへん高い状態が続いていることに変わりなく、備えを進めてほしい」
南海トラフのひずみ、確実に蓄積
地殻変動や地震のメカニズムに詳しい京都大学防災研究所の西村卓也教授は、GPSなど衛星による観測データをもとに、大地の動き=地殻変動を分析しています。
それによれば、南海トラフ地震の想定震源域では、四国や紀伊半島などで、年間4センチ前後のひずみがたまり続けているとみられています。
およそ80年前に南海トラフで起きた地震のあとから、毎年このペースでひずみがたまっているとすると、すでにマグニチュード8クラスの地震を引き起こすエネルギーがあると指摘しています。
京都大学防災研究所/西村卓也 教授
「今回の日向灘地震そのものの影響は次第に小さくなるが、南海トラフ全体ではひずみがたまり、次の地震への準備が進みつつある。近い将来、巨大地震が発生することに変わりはない。地震の具体的な予測は難しく、ほとんどの場合、臨時情報が出ないまま巨大地震が起こる可能性の方が高い。今回見直した地震への備えを、今後も続けていってほしい」
「活動期」に入っている可能性
JAMSTEC=海洋研究開発機構の堀高峰センター長も、今回の地震に関わらず、南海トラフでは、巨大地震の発生する可能性が日に日に高まっていると警鐘を鳴らしています。
堀さんが注目しているのは「西日本での内陸地震の増加」です。
およそ1000年間に起きた規模の大きな内陸地震と、南海トラフ巨大地震を時系列で見ると、南海トラフ巨大地震の前には、内陸地震が多くなることがわかりました。
集計すると、「南海トラフ巨大地震の直前50年間に起きる地震の数」は「それ以外の期間に起きる地震」のおよそ2.3倍になります。
堀さんは、こうした時期を「活動期」と呼んでいます。
近年では、▼1995年に阪神・淡路大震災を引き起こした「兵庫県南部地震」、▼2000年の「鳥取県西部地震」、▼2016年の「熊本地震」、そして▼2018年の「大阪北部地震」と、内陸で規模の大きな地震が相次いでいます。
堀さんは、現在は、この「活動期」に入っていると指摘しています。
JAMSTEC=海洋研究開発機構/堀高峰 センター長
「今回の地震が直接、南海トラフ地震に影響しているとは考えていないが、歴史的に見ても内陸地震が比較的多い時期にわれわれはいるんだということを意識していただいて、その中での備えが必要だというふうに思ってます」
内閣府「臨時情報」検証へ
今回の日向灘の地震を受けて「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が初めて発表されました。
国は、防災対策の推進地域に指定されている29の都府県の707市町村に対し、日向灘での地震発生から1週間、備えを改めて確認してほしいと呼びかけ。
期間中、▽祭りなどを津波からの避難経路を伝えた上で予定通り開いたところがあった一方、▽海水浴場を閉鎖したところもあるなど対応は分かれ、キャンセルが相次いだ宿泊施設もありました。
こうした状況を受け、南海トラフ地震の防災対応を所管する内閣府は、呼びかけの対象となった▽707の市町村や▽運輸、観光、小売りの事業者などに、9月中にもアンケートを実施する予定です。
▼防災計画の策定状況や▼受け止めを調べるとともに、専門家でつくるワーキンググループの意見もふまえ、情報の伝え方などの改善に向けた検討を進めることにしています。
(取材班:社会部 老久保勇太,及川緑,宗像玄徳 大阪局 藤島新也)
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