7月の3連休の初日、神戸市中央区のベイエリア。
観光遊覧船「bohboh KOBE」の機関長を務める西子(にしこ)貞雄さん(65)=兵庫県明石市=は夕方の運航へ向け、中突堤中央ターミナル「かもめりあ」にいた。
午後4時すぎ、船員の声が響いた。「人が海に落ちている」
海に目を向けると、岸壁から数メートル離れた水中に男性の姿があった。岸壁にいる人が「浮輪を持て! 大丈夫か!」と声をかけている。
男性はぐったりとし、近くに投げられた救命用の浮輪をつかむ力もない様子だった。
300~400メートル離れたメリケンパークからは、通報を受けたとみられる警察艇と消防艇が向かってきていた。
でもこのままじゃ間に合わない、沈んでしまう――。
西子さんはとっさに上着と無線機を外し、水中へ一直線に飛び込んだ。
男性の近くにあった浮輪を左手に持ち、自分の浮力を確保した。
しがみつかれると一緒に溺れてしまうため後ろに回り、男性の首もとに右腕を回して水中から顔を引き上げ、呼吸をしやすい体勢をつくった。
警察艇と消防艇が到着するまでの10分間ほど、水中で声をかけて励まし続けた。
神戸水上署によると、男性はその後病院に搬送され、数日後に意識が戻ったという。海へは誤って転落したらしい。
西子さんは18歳で静岡県の海員学校を卒業し、約45年ほど海の上で働いてきた。
溺れている人を助ける時は自身の安全を確保することが第一優先だと、これまでの救護経験で学んだという。「目の前で溺れている人がいたら、また同じように助けに行くと思う」
西子さんには、善行をたたえる県の「のじぎく賞」が贈られた。
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神戸水上消防署は「溺れている人がいたら、ペットボトルなど何かしら浮くものを投げて、119番か(海であれば)海上保安庁の118番に通報してほしい。自身が溺れた場合は着衣に空気を入れる、力を抜いて仰向けになるなど、顔が水面から浮く状態を保って」と呼びかける。(原野百々恵)
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