秋田県北秋田市のマタギ(猟師)に弟子入りした高松市出身の山田健太郎さん(29)が、クマの皮を革製品にして販売する事業を始めた。2023年は秋田県内でクマの出没が相次ぎ、駆除されたケースも多い。マタギや秋田の人たちから得た「授かった命を最後まで生かす」という精神を製品に込めた。「命への感謝の気持ちを発信したい」と話している。(共同通信=山崎祥奈)
山田さんは大阪大に在学中、東北地方を巡る旅の途中で、マタギ発祥の地とされる北秋田市の阿仁地区を訪問。マタギの話を聞き、その生き方に引かれた。卒業後の2020年、同市に移住した。
先輩マタギに付いてクマ猟や捕獲後の解体に携わるうち、あることに気付いた。肉は食用としてみんなで分け合うが、処理に手間がかかる皮は多くが捨てられる。「なんとか生かせないか」。そう考えて2022年、皮を加工した小さな飾りを試作してイベントで出品したところ、高い関心が集まり、手応えを感じた。
事業を始めるには一定数の皮を確保する必要があったが、クマの駆除件数が多かった2023年、90頭分の皮を狩猟者から譲り受けた。2024年6月、マタギの言葉でクマを指す「イタズ」からブランド名を「イタズ・レザー」と発表。名刺入れやキーホルダーなどを製品化した。皮についた生前の傷や染みも「クマが生きた証し」として、あえてそのまま残した。
山田さんによると、秋田以外ではクマを解体せず、そのまま処分する地域もある。時間をかけて解体し、何かに生かそうとするのは秋田の伝統的な文化だという。「駆除して終わりではなく、授かった命に感謝したい。皮から作った革製品を手に取って、命との向き合い方を考えるきっかけにしてもらえれば」
8月、阿仁地区で開いた展示販売会には、4日間で約200人が訪れた。クマの革製品を見るのが初めてという秋田県大館市の鳥潟功さん(62)は「命を最後まで余すことなく使い切っていると感じた」。共感の輪が少しずつ広がっていきそうだ。
当面は秋田などで展示販売会を行い、オンライン販売の予定はないという。
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