香港中心部の商業施設「K11ミュシーア」で開催された「ドラえもん」特別展=2024年7月(共同)

 不動産不況などに伴う消費不振からの脱却を目指し、香港政府が大型イベント開催の支援に力を入れている。民主派抑圧によるイメージ悪化もあり、海外からの観光客は新型コロナウイルス禍前の水準には遠く及ばない。世界的スターの公演や日本の漫画も活用し、街のにぎわいを取り戻したい考えだ。(共同通信香港支局=一井源太郎)

 ▽コロナ前から43%減

 「子どもを喜ばせたくて来た」。中国広東省深セン市から「ドラえもん」をテーマにした特別展を見に来た、子連れの30代女性は上機嫌で語った。香港中心部の商業施設「K11ミュシーア」で2024年7月から始まった特別展は有料チケットが売り切れて開催期間を延長するほどの人気。無料エリアにも多くの人が訪れる。

 施設は来場者3割増を達成し、施設の幹部は「(特別展は)商業的な成功をもたらすだけでなく、香港の人気向上にも寄与する」と地元経済への波及効果に自信を示す。

 物価高に苦しむ市民の間では香港の北側に隣接する深セン市で買い物をする「北上消費」が流行。香港の消費低迷の要因になっており、2024年4月の小売売上高指数は前年同月比14.7%減だった。さらに2019年の反政府デモの混乱や、その後の民主派抑圧のマイナスイメージは根強く、2024年5月の域外観光客(中国本土を含む)の数は2019年5月比で約43%減と低迷が続く。

 ▽シンガポールに負け

 香港政府トップの李家超行政長官は「メガイベント経済」のスローガンを打ち出して消費促進をもくろむ。2024年中に約210の催しが行われ、約170万人の観光客を呼び込む計画で、約72億香港ドル(約1350億円)の観光収入を見込む。

 政府は経済波及効果が大きい大物スターの公演の誘致にも懸命だが、米人気歌手テイラー・スウィフトさんのアジアツアーは2024年2月と3月に東京とシンガポールで実施された。ライバル視するシンガポールに負けたことが、市民の間では「香港の地盤沈下を象徴する出来事」と捉えられた。

 観光客誘致に注力する半面、香港政府は長年の課題だった国家安全条例を2024年3月に施行。同条例はスパイ活動などの防止を目的とするが、民主派の抑え込みにも利用されている。条例施行を受け、台湾が香港渡航のリスクが高まったと勧告したほか、米国やカナダも国民に注意を呼びかけた。

 サッカー・アルゼンチン代表のメッシ選手を目玉とした2月の親善試合は政府支援イベントだったが、メッシ選手が急きょ欠場。負傷が理由とされたが、民主派抑圧を続ける政府への不満表明との受け止めが広がった。統制強化の流れはイベント誘致に今後も影を落としそうだ。

香港中心部の商業施設「K11ミュシーア」で開催された「ドラえもん」特別展の有料エリアを訪れた人=2024年7月(共同)
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