今年3月、惜しまれつつ販売終了が発表された明治の飴(あめ)「チェルシー」が今月、北海道限定の土産用菓子に生まれ変わって全道で発売された。手がけたのは、明治のグループ企業の「道南食品」(函館市)。進化を遂げた新生チェルシーは、北の大地でそのブランドを守れるか。(森本智之)

◆「復活」じゃない、製法も原材料も全く新しいチェルシー

 「発売前から北海道では注目が高く、15袋しか入荷できなかった。次はいつ入荷できるか…」  発売翌日の4日、網走市で海産物などを取り扱う「今野商店網走番屋店」店長の渡辺智也さんは、その人気ぶりを「こちら特報部」に話した。  製造した道南食品業務部の本間千絵氏は「よく『復活』と言われるが、それは間違い。製法も原材料も一新したチェルシーです」と強調する。北海道産の原料を使い、「生キャラメルにチョコレートを混ぜた、キャラメルでもチョコでもソフトキャンディーでもない、全く新しいジャンルのお菓子」という。

「新生チェルシー」発売を伝える、道南食品の公式X(旧Twitter)のスクリーンショット

 食べた男性は「味わいはバタースカッチだけど、食感は軟らかい」と感想。ネットでも「別物だけどおいしい」などと声があがる。標準21粒入りで、希望小売価格864円。オリジナルより高いが、180袋を1時間半で完売した店も。「想像以上の売り上げ」(本間氏)だ。

◆「ハードキャンディーとしてのチェルシーは死んだけど」

 オリジナルは1971年に発売された。長く明治の看板だったが、ハードキャンディーと呼ばれる飴市場がグミなどのソフトキャンディーに押され、売り上げが低迷。今春、53年の歴史に幕を下ろした。  だが、新チェルシーの開発は、ひそかに始まっていたという。明治は「ハードキャンディーとしてのチェルシーは死んだに近いが、ブランドだけでも残したい」(広報担当者)と、道南食品にリニューアルを打診していた。道南は、2016年に生産終了した明治の「サイコロキャラメル」を、北海道限定の土産物品として引き継いだ経験もあった。  この担当者は「長年ファンに愛されたチェルシーブランドに思い入れがあった。なるべくなら自分たちで何とかしたかった」と振り返る。

3月に出荷を終えた明治の「チェルシー」

 販売終了の前にはチョコやクッキーにしたり、原材料にこだわったプレミアム版も出したりと「もがいた」が、うまくいかなかった。道南への打診も勝算があるわけではなく、「起死回生の模索の一手、希望も託す形でお願いした」とまで話す。

◆未知の世界、大きなプレッシャー

 重すぎるボールを受け取ったのは道南。本間氏は「本当に一からの商品開発で、未知の世界だった。ブランドを引き継ぐプレッシャーは非常に大きかった」と隠さない。  かくしてオリジナル終売を発表した3月の段階では、商品化のメドがたたず、ブランド継承を広報できなかった。「売れるかどうか分からない」中、7月に新生チェルシーの発売を公表。8月から新千歳空港でテスト販売していた。  消費経済アナリストの渡辺広明氏は、売り上げ低迷で一度は販売終了したお菓子が、地域限定で再販売される試みについて「聞いた事がない」と驚く一方、新商品は「売れるはず。チェルシーは長い歴史がある。売れ筋のソフトタイプに生まれ変わったことで、知名度のあるブランドを再活用できる」と期待を寄せる。  オリジナルの再販予定はないが、お菓子の魅力を発信する「お菓子勉強家」の松林千宏氏も「形は変わってもブランドが復活してくれて、ファンとしてはうれしい」と受け止める。  その上で「白い恋人」や「白いブラックサンダー」といった定番商品を念頭に、「今度は土産用菓子との戦いが待っている。北海道はライバルが多く、競争は大変。でも、お菓子そのものに力があれば生き残れるはずだ」とエールを送った。 

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