<私の存在が日本からなくなっているかのようです>。こうつづった中東出身の女子高校生=関東在住=の作文が31日、絵本として出版される。高校生は迫害から逃れるため幼少期に家族と来日したが、日本政府に難民認定されず、在留資格がない「仮放免者」として制限だらけの暮らしを強いられている。同じような境遇の子どもたちは後を絶たず、高校生は「絵本をきっかけに、わたしたちの状況を知ってほしい」と願う。(池尾伸一)

家族の誕生日。中東出身の高校生の家族が入管で責められる(左側)。日本の高校生は家族でお祝い(右側)

◆「アルバイトをしたいけど…」

 題名は「私は十五歳」。基になった作文は、高校生が昨年、駒井知会(ちえ)弁護士らによる「仮放免の子どもたちによる絵画作文展」に応募し、優秀賞を受賞した。<私が見ている世界は普通に日本に住む人と多くの違いがあります>として、アルバイトをしたり、遠出して好きなアイドルのグッズを買うなど<高校生っぽいことをしたい>のに<夢は一度も叶(かな)っていません>と思いを披歴。弟が入管職員に「クソガキ」と怒鳴られた経験も打ち明けた。  作文は出版社「イマジネイション・プラス」代表の乙部雅志さんの目に留まり、子どもたちにも問題を知らせたいと絵本化を思い立った。

作文を書いた中東出身の高校生=池尾伸一撮影

◆「日本で起きていることとは信じられず」

 作画の名古屋市在住の絵本作家・なるかわしんごさんは「作文を読んだときは、日本で起きていることとは信じられなかった」という。その過酷さを日本人にも身近に感じてもらうため、同じ年頃の日本人高校生の日常生活と対比させながら物語を進める表現方法をとった。
 父親の誕生日。日本の高校生の家庭では娘の手紙に父親が涙する。中東出身の高校生の家庭ではその日に入管で在留資格を取り上げられ、高校生は涙を流す。  原案者の「アズ・ブローマ」は仮名で、高校生の故郷の言葉で「わたしはここにいる」という意味だ。住民票すら与えられず日本にいないかのように扱われる仮放免者。自らの存在を示すため高校生は本名の掲載を望んだが、弁護士らは入管当局から不利に扱われたり、ヘイトスピーチにさらされたりする危険を懸念した。乙部さんは「悲しかったが、これが今の日本の現実」と言う。

「私は十五歳」の表紙 

◆同世代との間に「遮断機」

 苦しい環境ながらも、高校生は今は「大学に入って看護師になり社会の役に立ちたい」と語る。  作中では、高校生と日本の高校生を隔てる存在として、踏切の遮断機が登場する。在留資格に関する権限を一手に握り、日本人と外国人の間に見えない境界をつくる入管行政の象徴として描かれた。乙部さんは「多くの人が現状を知れば社会も変わり、遮断機も開くはず。絵本を読んでもらうことがその一歩になれば」と話した。

仮放免者 在留資格を失い、入管施設への収容対象だが、一時的に解放され施設外での生活が認められた人。2023年末で4133人。労働や県境をまたぐ移動は禁じられ公的な健康保険にも加入できない。国連の人権関係の委員会は人道上の問題が多いとして日本政府に改善を勧告している。法務省は昨年8月、18歳未満の仮放免者には特例で在留資格を与える方針を示したが「日本生まれ限定」などの条件で対象を絞った。



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