2024年6月、タイ・バンコクで「プライド月間」のパレードに参加したカップル(ゲッティ=共同)

 タイで東南アジア初の同性婚の法制化が実現する。タイは性的少数者を受け入れる文化がありながら、権利を守る法律は未整備だった。若者の支持が法制化を後押しし、国際的なイメージ向上を目指す政権の思惑も重なった。世界の同性カップルを歓迎し、観光に来てもらうことで経済効果も狙う。(共同通信バンコク支局=伊藤元輝)

 ▽虹色装飾で祝賀ムード

 同性婚法案は2024年6月18日に上院を通過し、年内にも施行の見通しとなった。毎年6月は世界でLGBTQなど性的少数者の権利擁護を訴える「プライド月間」。首都バンコクではシンボルの「虹色」の装飾が目立ち、法案通過で祝賀ムードが盛り上がった。

 「歴史的な瞬間だ」。最大野党「前進党」のピター前党首は交流サイト(SNS)で祝った。前進党は昨年の総選挙で躍進。LGBTQなどを自認する複数の議員が権利擁護の議論を主導し、若者の支持が厚い。政権与党はこうした人気の取り込みも狙って法制化を推進したとみられる。

 セター首相はSNSで「性的少数者に友好的な目的地であることを誇りに思う」と投稿し、世界的なパレード誘致を目指す意向も表明した。閣僚からは同性カップルの結婚式やハネムーンでの滞在を期待する声も上がる。経済重視を掲げるセター氏は、法制化で観光大国の地位をさらに固めたい考えだ。

 ▽「男女」使わず「2人の個人」

 タイの同性婚を認める法律は民法を修正する形で実現する。結婚に関する規定の文言で「男女」を使わずに「2人の個人」とし「夫」「妻」も「配偶者」に変更。外国人同性カップルのタイでの婚姻登録も受け付け、配偶者ビザ取得の権利を得られる。

 法制化は2001年に当時のタクシン政権で閣僚が提案したが、時期尚早として却下された経緯がある。「まだ理解が広がっていなかった」と当時からバンコクで性別適合手術に携わる医師は説明する。社会に溶け込んでいたが、高度な職業に就くのが難しいといった差別もあり、機運は熟していなかったという。

 約20年でショービジネスの人気が定着し、性別適合手術を提供する医療ツーリズムも発展。物腰が柔らかいタイ人の気質もあり、性的少数者に友好的なイメージは強固になった。タイメディアが「矛盾している」と指摘した社会と法制度の落差を埋める土壌ができ、上下両院で圧倒的多数の法案賛成につながった。

グラフ
2024年6月、タイ・バンコクで同性婚法案が上院を通過し、喜ぶ関係者(ロイター=共同)
2024年6月、タイ・バンコクで同性婚法案の上院通過を祝う関係者(ロイター=共同)
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