今年から8月26日が「火山防災の日」になったことをご存じだろうか。昨年、活動火山対策特別措置法が改正され、啓発のために設けられた。国内の火山の中でも特に富士山が噴火すれば、周辺で噴石や火砕流の被害を出すだけでなく、首都圏にも火山灰が降り社会機能がまひするリスクがある。節目の日を前に、富士山噴火の危険性、行政の対策の今を調べた。(中川紘希)

◆日本には100以上の活火山、世界有数の火山国

 内閣府によると、火山防災の日は、1911年8月26日に国内初の火山観測所が群馬県と長野県にまたがる浅間山に設置されたことにちなむ。

山頂への立ち入りを禁じている活火山の浅間山

 「日本には100以上の活火山がある。世界有数の火山国だ」と担当者。記念日を設け、安全対策を呼び掛ける必要性を強調する。  なぜ今なのか。担当者は、近年の研究によって富士山噴火で被害が出るまでの予想時間が短くなり、鹿児島県の桜島の大規模噴火の可能性も指摘されていることなどを挙げた。初の記念日となる26日は、東京都千代田区の砂防会館でイベントを開き「今できる防災対策とは」と題して専門家らが講演する。

◆溶岩流エリアの住民は「徒歩で避難」というが

 活火山の中でも、大都市圏への被害が懸念されるのが富士山だ。静岡大の小山真人名誉教授(火山学)は富士山の状況について「1707年の宝永噴火以来、約300年間沈黙しているが、将来的に再び活動期に入る可能性はある。過去5600年を見ると96%が中小規模の噴火だが、首都圏や東海道に近く噴火の影響は他の火山より大きい」と説明した。

約300年前に大噴火した富士山の宝永火口=2016年本社ヘリ「あさづる」より撮影

 静岡、山梨、神奈川県は協議会をつくり防災対策を進めている。2021年にハザードマップを見直し、2023年に「富士山火山避難基本計画」を策定した。計画では、住民や登山者が一斉に車で避難すれば渋滞が起き逃げ遅れが出ると予測。速度が遅い性質がある溶岩流の被害が出るエリアの住民は、基本的に徒歩避難させることとした。  ただ計画に実効性はあるか。静岡県の担当者は「細かく分けた地区によって避難のタイミングや方法が異なる。今後市町と協力し周知して、訓練も繰り返さないといけない」とする。徒歩避難の地区でも車でいち早く逃げたいという住民の反応もあり「徒歩避難の理由など丁寧に説明し、理解を得ていきたい」と述べた。

◆増え続ける外国人登山客への避難情報、どう届ける?

 近年増加している外国人登山客への周知も課題だ。計画上では、火山活動が変化し噴火警戒のレベルを引き上げる可能性が出た場合、登山者に対し、山小屋の管理人や防災無線で下山指示をしたり、登山者用のアプリで通知したりすることになっている。だが「山小屋の管理人は外国語が使えず防災無線も日本語のみ。アプリを持っていない場合も多く、情報を届ける方法は考えないといけない」と話した。

警戒レベル1での噴火で、多くの犠牲者が出た御嶽山。噴火翌日、山頂付近を捜索する自衛隊ヘリ=2014年9月28日撮影

 富士山噴火は3県に直接的な被害を与えそうだが、首都圏の他の都県も人ごとではない。内閣府の資料によると、江戸時代の宝永噴火では、火山灰が偏西風に乗り静岡県北東部から神奈川県北西部、東京都、房総半島にまで降り注いだ。建物が倒れ耕作ができなくなるなどの影響が出た。  火山灰対策は道半ば。内閣府は検討会を開き、2020年に停電や通信障害、水質汚染、鉄道の運行停止など降灰の影響を整理した。今年7月にようやく関係機関の具体的な降灰対策の連携を固めるための議論を始めた。年内に検討結果をまとめる方針だ。  前出の小山名誉教授は「宝永噴火のような首都圏に火山灰を広く積もらせる噴火はまれだが、仮に生じた場合には大きな影響がある。対策を進めることが望ましい。大企業も事業継続計画(BCP)を策定しておくのが無難だ」と述べた。 

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