障害などで意思の伝達が難しくても、タブレット端末やスマホでスムーズに「会話」できるように――。難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)で亡くなった父親への思いを胸に、クラウドファンディング(CF)で商品開発を続ける男性がいる。

 兵庫県明石市の小学2年生太田メリサさん(8)は「脊髄(せきずい)性筋萎縮症」という筋肉が萎縮していく難病だ。

 日常的に人工呼吸器が必要で、単語を発することは難しい。

 右手の指先と、左腕の一部しか動かせないが、タブレット端末を使って自由に「会話」が出来る。

 母の萌(めぐみ)さん(34)が寝付かないメリサさんに困っていたある夜。ベッドに横になった状態のメリサさんが、右手の小さな親指に固定したスイッチを押していった。

 この動作で、ベッドのそばにあるタブレット端末の文字盤の文字を選択していくと、画面に文字が浮かんだ。

 「まま、だいすき」

 萌さんの疲れが一気に吹き飛んだ。

 萌さんが宿題を進めるようにメリサさんをせかした際には、「きょう1まいだけ あしたやる」という文字が浮かび、萌さんは思わず吹き出したという。

 「以前は、娘が夜中に『んんー』と何かを訴えていても、意図をくみ取れず親子で泣きはらす日もあった。スイッチはこの子の手のようなもの。これがあるから互いに思いが伝わるし、好きな動画も見られる。ただそれができるだけで、すごくうれしいことなんです」と萌さんは話す。

 このスイッチを開発したのが「アクセスエール」(大阪府茨木市)の松尾光晴社長(58)だ。

 自身を含めて2人の小さな会社だが、CFで資金を調達。障害者の意思伝達を支える機器を次々に世に送り出してきた。

 松尾さんの原動力は、ALSで亡くなった父親だという。「父が亡くなる際に口をもごもごさせていたが、聞き取れたのは『母ちゃんを頼むで』という言葉だけ。障害のある人の意思疎通を支えるために、自分にできることならなんでもやりたい」と話す。

 同社は現在、スイッチとスマホなどをつなぐアダプターの開発費用350万円を目標に新たなCFを実施する。

 「既製品は複雑な接続が必要になる」といい、機器の扱いが苦手な患者家族らが簡単に使える新商品を目指すという。

 萌さんも、このアダプターを心待ちにする。「誰でも簡単に扱えるアダプターがあれば、より多くの人に娘の『声』をたくさん聞いてもらえる。娘にはどんどん新しい体験をしてほしい」と話す。

 CFは31日まで。支援の方法など詳細は(https://readyfor.jp/projects/iOS-Adapter)で。(華野優気)

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