漆のつやが美しく、日々の食卓に彩りを与える「輪島うるし箸」。石川県輪島市で70年以上、箸を製作してきた橋本幸作漆器店は能登半島地震で甚大な被害を受け、無期限の休業を決めた。14年前に夫の泰二さんが死去し、後を継いで切り盛りしてきた橋本きよ乃さん(70)は「これからのことはすぐに考えられない」と静まり返った工房で一人語った。(後藤仁)

◆首都圏の百貨店にも納入

 工房は地震で漆を塗り終えて乾燥をさせた箸が散乱。年明けに納品する予定だった納期と数量を記したメモも張られたままになっている。1949年に夫の父に当たる幸作さん(故人)が始めた工房。贈答品としても人気のある漆塗りの箸を卸問屋ほか、首都圏を中心に百貨店などにも納入してきた。

漆を乾かしていた箸は房で散乱したままになっている=石川県輪島市気勝平町で

 工房の建物は無事だったが自宅は半壊。1月、同県かほく市のみなし仮設に移った。水道が自由に使えるアパートでの生活に「早く出てきてよかったと、その時は思った」と振り返る。

◆「もう少し若ければ」

 工房の再開は進まなかった。70キロほど離れたみなし仮設との行き来は現実的ではなく、漆を塗る前の木地を納入してきた業者も被災。「私がもう少し若かったら違ったのかもしれないが」と悔やむが、再開の時期が見通せず、5人いた職人も解雇するしかなかった。今は月に1度、工房を訪れては散らばった在庫に道具の片付けを進めている。  「(再開を)せかされているように感じる」。かつての取引先から今も注文の問い合わせが入るという。「半年がたって、そろそろ復旧したと思っている人もいる。金沢の人ですら、そう思っている人がいる」  事業者を支援する制度も「いつか再開を決断した時に申請できるのだろうか」などの不安もある。ようやく慣れた避難先での生活、進まない輪島市内の復旧。みなし仮設の入居期限を迎える2年後を目安に「その時にもう一度、どうするかを考えたい」と話した。 

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