近年、野外のダニが媒介する感染症が相次いで報告されている。このうち致死率が高い「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の今年の感染者は、国立感染症研究所によると西日本を中心に約90人となり、過去最多だった昨年に迫る勢いだ。

吸血して大きくなったダニ(静岡県立静岡がんセンターの倉井華子感染症内科部長提供)=共同

野山に生息するダニが感染源で春から秋に活動的になる。発生地域も広がっていて「キャンプ場や散歩コースなど意外と身近な場所にいる」と専門家は予防を促す。

ダニ媒介感染症は、つつが虫病、日本紅斑熱などが昔から知られる。一方、2013年に日本で初めて山口県でのSFTS患者が発表されたほか、21年に北海道でダニが媒介したとみられるエゾウイルス、23年に茨城県で同様にオズウイルスが人から検出されたことが報告されるなど、近年新しい感染症も見つかっている。

このうちSFTSは致死率が3割弱程度と高いのが特徴だ。6〜14日の潜伏期を経て発熱や下痢などの症状が出る。感染研によると23年の報告数は133件。主に野外でダニにかまれて発症するが、ペットから人への感染例や、患者から医師への感染例もあった。

住宅地に近くても野山に続いている場所は特に注意が必要だ。ダニ媒介感染症に詳しい静岡県立静岡がんセンターの倉井華子・感染症内科部長は「登山をしなくても、かまれる可能性がある」と話す。

12年に川崎医大のチームが426例を調べたところ、ダニにかまれた場所や状況は、登山・高原などが237例(56%)と最も多いが、畑作業101例(24%)、山菜採り40例(9%)、自宅の庭33例(8%)だった。近くにシカやイノシシなどの野生動物が出るかどうかが一つの基準になるという。

体の部位別では首や頭、手脚をかまれることが多い。痛みを感じにくく、すぐに気づかないこともある。ダニは吸血すると、自分の体の数倍以上に膨張する。ただし吸血中のダニを無理に引き抜くのは危険だ。皮膚の中に潜り込んだダニの頭部が残ってしまうことがあり、その場合は医療機関での処置が必要となる。

対症療法しかなかった治療法に進展があった。富士フイルム富山化学の「アビガン」が今年6月、治療薬として製造販売承認された。もともと新型インフルエンザ用に政府が備蓄していた薬だ。

倉井氏は「何より大切なのはかまれないように予防することだ」と強調する。自然の多い場所では長袖、長ズボン、帽子、手袋などで肌の露出を避け、首もタオルなどで覆い、虫よけスプレーの使用、野外活動後の入浴を勧めている。〔共同〕

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