目次
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臨時情報の経緯は?
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8日以降の観測情報は?変化は?
臨時情報の経緯は?
気象庁によりますと、今月8日午後4時半すぎ、日向灘の深さ31キロを震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宮崎市の宮崎港で50センチの津波を観測するなど、九州から四国の各地に津波が到達しました。また、この地震で宮崎県日南市で震度6弱の揺れを観測したほか、震度5強を宮崎県と鹿児島県で観測しました。
この地震を受けて気象庁は南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震が発生する可能性がふだんと比べて高まっているとして「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表しました。
マグニチュード7以上の地震が発生した後、7日以内にマグニチュード8以上の地震が発生する頻度は数百回に1回程度だとしたうえで、必ず巨大地震が発生することを伝えるものではないとしています。
8日以降の観測情報は?変化は?
今月8日の地震以降、日向灘や大隅半島東方沖では地震が起きているほか、「深部低周波地震」と呼ばれる小規模な地震活動が紀伊半島に加え伊勢湾でも発生し、付近のひずみ計でも変化が観測されています。また、日向灘や九州南東沖で「浅部超低周波地震」と呼ばれる小規模な地震を観測しているということです。
さらに、宮崎県南部を中心に、地殻変動を観測しているほか、今月5日ごろから、熊野灘に設置された観測機器に地殻変動が原因とみられる水圧の変化が観測されたということです。
これらはいずれもふだんから繰り返しみられている現象で、南海トラフ地震の想定震源域では、地殻変動や地震活動にこれまでのところ特段の変化は観測されていないとしています。
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備えの呼びかけ、いつまで?
巨大地震に備えて防災対策の推進地域に指定されている29の都府県の707市町村に対して地震発生から1週間は地震への備えを改めて確認してほしいと呼びかけています。
具体的には、家具を固定したり、避難場所や家族の安否確認の方法をチェックしたりするほか、お年寄りや体の不自由な人、小さな子どもがいる家庭や施設では避難に時間がかかることも想定されるとして、必要に応じて自主的な避難も検討するよう呼びかけています。
こうした国による注意の呼びかけは、地震の発生から1週間となる15日午後5時に終わる予定です。
ただ、政府の地震調査委員会は、南海トラフ巨大地震が今後30年以内に70%から80%の高い確率で起きるとしていて、この確率に変化は無く、引き続き注意が必要です。
社会はどう反応した?
初めて発表された南海トラフ地震の臨時情報(巨大地震注意)。
国が日頃の地震の備えを再確認した上で、社会活動の継続を呼びかける中、各地で対策がとられた一方、影響が出たケースもありました。
“社会活動継続” 呼びかけられるも…
今月8日の記者会見で、南海トラフ地震に関する評価検討会の平田直会長は「夏休みやお盆の帰省などは控えた方がよいのか」と問われ、「この情報が出たら改めて日頃からの地震への備えを確認することが重要だ。例えば、津波に対しては自分のいる場所から警報が出たときにどこにどういう経路で逃げるか再確認する必要がある。それがきちんとできていれば夏休みで海水浴をしていただいても、個人的な考えですが特に問題はないと思う」と述べ、対策を取った上で控える必要は無いという認識を示しました。
自宅の備蓄を確認したり、不特定多数の人が利用する道の駅で、避難誘導の方法を点検したりするなど各地で対策がとられましたが臨時情報の発表を受けて、中止されたイベントがあったほか旅行を取りやめた人が出て、キャンセルへの対応に追われたケースもありました。
海水浴場の閉鎖相次ぐ
本来、夏休みで多くの人でにぎわうはずだった海水浴場。
宮崎県や和歌山県、静岡県、三重県などの海水浴場の中には遊泳を禁止する措置をとった場所もあります。
和歌山県白浜町は町内4か所の海水浴場を地震からおおむね1週間、閉鎖しました。
このうち白良浜海水浴場では10日に花火大会も予定されていましたが、地元の観光協会が中止を判断することに。
大江康弘町長は、海水浴場の閉鎖を決めたことなどについて「苦渋の決断だったが、観光客や町民の安全を第一に考えた判断で、ご理解いただきたい」と述べました。
観光シーズンに影響広がる
観光業界への影響も広がりました。
松山市の観光地、道後温泉では、宿泊のキャンセルが相次ぎ「道後温泉旅館協同組合」によりますと、影響は組合に加盟するおよそ30のホテルや旅館で数千人規模にのぼる見込みだということです。このうち、「道後プリンスホテル」では11日までのキャンセルは200人を超えたということです。
佐渡祐収社長は「最もにぎわう夏休みに向けて、部屋の改修や受け入れの準備などに全力をかけてきたので、非常に厳しい状況だ」と話していました。
徳島市の阿波おどりは、15日まで、屋外に演舞場やおどり広場を設けて開催されています。実行委員会によりますと、大津波警報を想定した避難誘導の計画を定めていて、スタッフに避難経路の地図を配布しているほか、会場の司会者には観客や踊り手を速やかに誘導できるよう原稿を渡して地震に備えているということです。
一方、臨時情報の影響で、チケットの返金の問い合わせが寄せられているほか、企業の踊り手グループの中には出演を辞退したところもあるということです。
実行委員会の庄野浩司委員長は、「臨時情報の発表は想定外のことだったが、来場者や参加者みんなに安心して楽しんでもらえるよう事細かに準備を重ね、きちんと実施できる体制をつくっていきたい」と話していました。
専門家はどう評価した?
「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の発表と社会の反応について、避難行動に詳しく南海トラフ地震臨時情報について高知県内などで認知度も調べてきた京都大学防災研究所の矢守克也教授は、今月8日まで臨時情報の認知度はかなり限定的だったとして「この1週間で多くの人が情報の存在を知り、トレーニングをしてもらう機会になったこと自体は前向きに評価できる」としています。
その一方、情報を見聞きしても備えの確認につながらなかったり、逆に防災対応に踏み込みすぎたりしたケースもみられたとして、「臨時情報の対応は、社会として、バランスのよい着地点なのかを探らなければならない情報だ。今回の対応を振り返り、これでよかったのかや、いい着地点はなかったのか検証することは大事だ」と指摘しています。
その上で、15日に臨時情報発表に伴う防災対応の呼びかけが終わっても、南海トラフ巨大地震が近い将来起こる可能性が無くなったわけではないとして、備蓄の強化や旅行する先で避難場所の確認など、これまで行った対応は今後も続けてほしいと呼びかけています。
実は知られていない”臨時情報”も…
南海トラフ巨大地震への注意を呼びかける臨時情報と同じように、北海道から関東にかけて被害が想定されていてる巨大地震への注意を促す情報が2022年から導入されていますが、十分周知が進んでいません。
北海道沖の「千島海溝」と三陸沖の「日本海溝」では、過去にマグニチュード7から9クラスの地震が繰り返し起きていて、最大クラスの巨大地震の発生が切迫していると考えられています。
国は、巨大地震に備えるため、「南海トラフ地震臨時情報」を参考におととし、「北海道・三陸沖後発地震注意情報」の運用を始めました。
気象庁は、想定される震源域やその周辺でマグニチュード7クラスの地震が発生した場合に、おおむね2時間後をめどにこの情報を発表し、その後の巨大地震が起きる可能性がふだんよりも高まっていると注意を呼びかけます。
南海トラフの巨大地震への注意を呼びかける臨時情報と同じく、事前の避難などは呼びかけず、発表から1週間程度は日常の生活を維持しつつ、すぐに避難できるよう備えておくことなどを求めます。
対象は、3メートル以上の津波や震度6弱以上の揺れなどが想定されている北海道と青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、それに千葉県の、太平洋側を中心とした自治体です。
この情報がどこまで普及しているかNHKが去年11月に北海道と青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県の対象地域に住む1000人に、インターネットでアンケートを行ったところ情報の名称について69%が「聞いたことがない」と答えました。
また、「聞いたことがある」と回答した31%の人たちの間でも、内容の理解が十分進んでいないことがわかり、情報の周知が課題となっています。
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