「被爆体験者」は爆心地から半径12キロ以内のにいながら、国が認定する地域ではなかったことから、「被爆者」と認定されていない人たちで、医療費の助成などで大きな差が出ています。

長崎原爆の日には例年、「被爆者」の団体の代表者が総理大臣に要望を伝える機会が設けられていますが、ことしは初めて「被爆体験者」の団体の代表者も参加することになり、式典後に市内のホテルで面会しました。

この中で、被爆者団体と被爆体験者の団体の代表者はともに「被爆体験者」を「被爆者」として認定することや、日本が核兵器禁止条約に署名・批准し、多くの国々に条約への参加を呼びかけることなどを求める要望書を手渡しました。

続いて、被爆体験者を代表して「第二次全国被爆体験者協議会」の岩永千代子会長が、原爆投下後に灰を浴びている被爆体験者の絵を紹介しながら、「私たちは被爆者ではないのでしょうか。被爆体験者も内部被ばくによる疾患にさいなまれています。私たちを被爆者と認めないのは、法の下の平等に反します」と訴えました。

これに対し岸田総理大臣は、「つらい経験を話してもらい心から感謝する。被爆から80年がたとうとしていて、被爆体験者は高齢化している」と述べました。

一方で、核兵器禁止条約への署名・批准については「日本政府としては、核兵器禁止条約に参加していない核兵器国を動かすことを重視している。核兵器国を核兵器のない世界にどれだけ近づけることができるか、それが日本の責任だと思っている」と述べるにとどまりました。

予定の30分を超えて厚労相と話し合い

今回の面会は30分間の予定でしたが、岸田総理大臣が退席したあとも武見厚生労働大臣が残り、被爆者や被爆体験者と話し合いを続けました。

「長崎原爆被災者協議会」で会長を務める田中重光さん(83)は「内容そのものは評価できないが、今までの30分の壁を破ったということで、成果があったのではないか。被爆者も被爆体験者も高齢化が進んでいるので、1日も早く解決しないといけない」と話していました。

総理大臣との面会を終えたあと「第二次全国被爆体験者協議会」で会長を務める岩永千代子さんは「厚生労働大臣に向かって私たちの目の前で指示をしたということはうそではないので、明るい方向に向かっていくのかなという気持ちになった」と話していました。

首相に強く訴える場面も

今回の面会では、発言予定のなかった被爆体験者の団体の支援をしている男性が、岸田総理大臣に向かって被爆体験者を被爆者と認めるよう強く訴える場面がありました。

発言したのは被爆2世の平野伸人さんで、随行者などの席に座っていて発言の予定はありませんでしたが、面会の最後で立ち上がり原爆投下後に灰を浴びている被爆体験者の絵を取り出して示しました。

そして岸田総理大臣に対し「聞いてください。被爆体験者は被爆者ではないのですか。声が聞こえないのですか。どう考えても被爆者でしょう」などと大きな声で訴えました。

これに対して岸田総理大臣はしばらく座ったまま聞いていましたが、その後いすから立って、平野さんに近づき、「厚生労働大臣が直接、話を伺います。みなさん高齢化していて時間がない、ぜひ、急ごうということを先ほど申し上げた」と述べました。

その後、岸田総理大臣に代わって武見厚生労働大臣が平野さんやほかの出席者と話し合いを続けていました。

訴えた男性「期待しているので失望させないでほしい」

面会で岸田総理大臣に被爆体験者の被爆者認定を強く訴えた、被爆2世で被爆体験者の支援者の平野伸人さんはNHKの取材に対して「総理の答弁はゼロ回答だと思ったので、被爆体験者を被爆者と認めないのかをイエスかノーかで話を聞いた。総理は『きちんと指示をしましたから』と言って期待を裏切らないという印象を受けた。私が大きな声を出して詰め寄ったのに話しに来てくれたので総理の誠意も感じた。握手も総理から求めてきた。期待しているので失望させないでほしい」と話していました。

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