日向灘に面した宮崎県日南市の沿岸部(8日午後)=共同

気象庁は九州・日向灘で起きた地震を受け、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を初めて発表した。同地震の想定震源域は東海沖から九州沖に及び、甚大な被害が想定されている。日常生活を送ることが基本だが、今後1週間は平時より発生可能性が高いとされ、列島は防災・減災対策の確認を迫られる。

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南海トラフの震源想定域は「もともと巨大地震がいつ起きてもおかしくない状態」(東京大の平田直名誉教授)とされていた。今回の震源は南海トラフ全体から見れば南西の端だが、遠隔地の地震を誘発する可能性もあり、気象庁は「1週間ほどは備えの再確認が必要」と呼びかける。

総務省消防庁は8日、南海トラフ地震で震度6弱以上の揺れなどが想定される「防災対策推進地域」の29都府県707市町村に対し、避難態勢の準備などを住民に呼びかけるよう求める通知を出した。住民に迅速に情報を伝えることも求めた。

最大34メートルの津波が想定されている高知県黒潮町では事前に巨大地震注意の発表を受けて避難所を開設すると決めており、臨時情報が出た8日、約30カ所に設けた。移動に時間がかかる高齢者への避難も呼びかけた。

ただこうした大事を取った対応は自治体の一部に限られるとみられ、行政側も臨時情報が出された場合の対応を模索している。

南海トラフ地震の人的・経済的な被害は甚大だ。

政府の2013年の想定によると、マグニチュード(M)9.1の巨大地震が起きた場合、関東から九州にかけ10メートル以上の津波が発生すると試算。最悪のケースでは死者が東日本大震災を大幅に上回る32万3000人に上る。

発生した場合、政府は東海、四国、九州、近畿、山陽の各地方の計15府県でライフラインを中心に影響が長引くと想定。断水は地域によっては1週間以上続き、全域での復旧には約1カ月かかると見込まれる。

大動脈も寸断される。東海道・山陽新幹線は発災から1週間は不通で、往来は難しくなる。東名や新東名など各高速道路でも通行止めとなり、物流を中心とした経済活動も停滞するとみられる。経済被害は220兆3000億円に上ると試算されている。

被害想定を受け、政府は防災対策推進地域のほか、14都県139市町村を「津波避難対策特別強化地域」に指定。住民が逃げるための津波避難タワーの建設などの対策を促した。

全国的にも建物の耐震化を進め、想定された死者数を8割減らす目標を掲げた。対策を踏まえた19年の政府試算では死者は23万人に減少した。

揺れへの対策では住宅の耐震化率は18年の推計で87%、危険な密集市街地の解消割合は51%にとどまる。高齢化する地域では古い自宅の改修などが難しい現状がある。

家具の固定率も22年度時点で約36%と家庭での対応も十分でない。上水道の基幹管路の耐震適合率は21年度に41%とライフラインの維持にも不安が残る。

21年時点で3割近い自治体が、津波から避難するためのタワーやビルを指定できていない。各地区で想定される津波の高さに応じて選定するが、地方では該当する建物が少なく、整備には予算の制約もある。

ソフト面も課題が残る。21年度時点で24%の市町村が津波に関してハザードマップの作成と訓練を実施できていない。企業も事業継続計画(BCP)を策定しているのは同年度時点で大企業だと7割、中堅企業では4割にとどまる。

住民自ら避難経路を確認したり、水や食料を最低3日間は備蓄したりするなど、個人でできる対策を進めることが減災には不可欠だ。

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