体に超音波を当てる「HIFU(ハイフ)」と呼ばれる美容医療の施術をエステサロンで受け、やけどを負ったとして、東京都内の20代女性が8日、サロンの運営会社に治療費など415万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。国は医師以外のハイフの施術を医師法違反としているが、美顔や痩身(そうしん)効果をうたうエステサロンでの施術で健康被害の報告が多発し、国や専門家は警鐘を鳴らしている。女性の弁護団によると、ハイフ施術を巡る民事訴訟は全国で初めて。(三宅千智)

◆ゴルフや温泉で苦しい気持ちに

「提訴を機に施術の危険性を周知したい」と語る原告の女性=8日、東京・霞が関の司法記者クラブで

 訴状によると、女性は2021年9月、都内のエステサロンで、足のむくみを取る目的でハイフの施術を受けた。施術中に激痛があり、左太ももの内側に複数の点状のやけどを負った。  女性は提訴後の記者会見で「今もやけどの痕が残っている。趣味のゴルフで丈の短い服を着る時や、友人との温泉旅行などで苦しい気持ちになる。提訴を機にハイフ施術の危険性を周知したい」と話した。

◆医師資格のない者の施術は違法

 会見に同席した「HIFU被害対策弁護団」の川見未華(かわみみはる)弁護士によると、弁護団がホットラインを設けた昨年4月以降、健康被害の相談が20件寄せられた。川見弁護士は「被害者はもっと多いはず」と述べた。

ハイフ施術から8日後の女性の左太ももの写真=女性の代理人弁護士提供

ハイフ施術当日の女性の左太ももの写真=女性の代理人弁護士提供

 運営会社側は「訴状が届いていないのでコメントは差し控える」としている。  ハイフを巡り、国民生活センターは17年に「医師資格のないエステティシャンの施術は禁じられている」と注意喚起。厚生労働省は今年6月、医師以外の施術は医師法違反に当たるとの見解を示した。

 ハイフ 高密度焦点式超音波(High Intensity Focused Ultrasound)の略。高密度の超音波を照射し、肌を傷つけずに体内の組織を加熱し、高温にする技術。前立腺がん治療のほか、しわやたるみ、痩身(そうしん)など美容目的にも用いられる。

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◆「口角にまひ」「目の中心部がかすむ」

 「鏡を見たら上唇、口角がだらりと伸びきった感じでまひしていた。その後、まひが治まらない」「施術終了から3〜4時間後に、左目にもやがかかったような違和感があり、翌日、目の中心部がかすんで白くぼやけた」

ハイフの施術の様子(消費者庁がトラブルを紹介するため作成した動画の一場面)

 「切らないリフトアップ治療」と手軽さをアピールし、たるみやしわの改善に人気のハイフ。消費者庁には2015年以降、施術でのやけど、まひ、視力障害といった健康被害の報告が相次ぐ。特にエステサロンでの事故が増えている。

◆信頼性の低い機器が使われている

 同庁によると、ハイフ施術は機器の出力や照射方法が不適切だと、神経障害を起こすリスクがあり、神経や血管の位置など解剖学の知識と高度な技術が求められる。消費者安全調査委員会(消費者事故調)の調査で、安全上信頼性の低い機器がエステサロンで使われている実態も確認された。  日本美容外科学会(JSAPS)理事で形成外科医の河野太郎・東海大教授が23年度、ハイフ機器を使用した医療機関を対象にしたアンケートでは、やけどや神経障害、白内障などの合併症が生じた事例が多数あったという。  河野教授は「クリニックの医師の施術でも、合併症が起きる危険がある。医学的な技術や教育が十分でないエステサロンではリスクがさらに高まる」と指摘。「施術を受ける際は費用や効果の面だけでなく、合併症のリスクや回避法をきちんと説明するクリニックを選ぶことが重要」と話す。 

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