能登半島地震の被害が甚大な石川県珠洲(すず)市の大谷地区で、唯一のスーパーとして半世紀にわたり地域を支え「スーパーおおたに」が廃業した。社長の藪下正博さん(67)と妻の由美子さん(65)は、能登町白丸の自宅から片道40分を毎日通って経営を続けてきた。「地域の皆さんに良くしてもらった。感謝を伝えたい」と語った。(岩本雅子)

◆今後の買い物は車で30分の市中心部に

 店舗は地震で全壊し、市中心部とつながる道路を半分ふさぐように倒れていた。正博さんがボランティアに片付けを依頼した7月中旬、「スーパーおおたに」と書かれた看板が形をなくした。今後は、住民が買い物をするためには大手スーパーによる移動販売か、車で30分ほどの市中心部まで通う必要がある。

店頭に立ち続けた社長の藪下正博さん㊨と妻の由美子さん=7月23日、石川県珠洲市大谷町で

 卸売業で地区に携わっていた先代が約50年前に開業し、正月を除き、午前8時から午後7時半まで毎日営業した。地区には商店やコンビニ、薬局はない。夫妻は20年前から店頭に立ち、地元の従業員を雇いながら続けてきた。  新型コロナウイルス禍が明けた後は、奥能登国際芸術祭で訪れた観光客の利用もあり、売り上げも良かった。由美子さんの作る「揚げたこ焼き」が人気だった。年齢的に継続が難しくなっていたが昨年末、会計士に「もう少し頑張る」と宣言したばかり。年明け3日の初売りに合わせ、商品をたっぷりそろえていた。

◆常連も感謝「唯一のサロン、よりどころだった」

 地震発生時、夫妻は能登町の自宅にいた。白丸地区を襲った津波の被害は逃れたが、大谷地区は一時孤立し、なかなか様子を見に行けなかった。友人から写真を送ってもらい「絶望的だ。もうだめだと思った」と正博さん。再建を望む声もあったが、年齢と資金繰りの問題で廃業を決めた。由美子さんは「心にぽっかり穴があいた感覚。体力的に厳しかったけど、楽しかったから」と話す。  夫妻が解体の打ち合わせで店を訪れた7月下旬、常連の岡本和子さん(72)と偶然再会した。廃業を伝えると岡本さんから「唯一のサロン、よりどころだった。不便な所でお店を続けてくれてありがとう」と言葉があった。正博さんは言う。「更地になっても地域に貢献する場所であってほしい。ここは大谷の一丁目一番地だから」 

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