能登半島地震では石川県内の海水浴場の多くが海岸隆起や施設の損傷で、この夏は海開きができなかった。高い透明度を誇り、奥能登地方では唯一「日本の渚(なぎさ)百選」にも選ばれた珠洲(すず)市の鉢ケ崎海水浴場もその一つ。例年なら1万人近い海水浴客でにぎわう浜辺だが、波の音だけが響く。(後藤仁)

海水浴場を管理する鴨谷欣治さん。海水浴客の姿はなく、海岸の舗装も地震でひびが入る。=石川県珠洲市蛸島町で

◆海の家は傾き、海岸の舗装でひび 断水は今も

 「海は変わらずきれいです」。海水浴場を管理する鉢ケ崎リゾート振興協会事務局長の鴨谷欣治さん(55)は雑草の生い茂る浜辺で語った。シャワーやレストランを備える2階建ての海の家は建物が傾き、海岸の舗装も所々でひびが入る。敷地内では今も断水が続き、10あるバンガローは利用できず、最大100のテントを張れるサイトも予約を受け付けていない。  「昨年は5月に大きな地震があっても海開きには間に合ったが…」と鴨谷さん。トイレとシャワーだけでも復旧できれば環境が整えられると準備を進めたが、間に合わなかった。  海水浴場の周辺は自衛隊車両や、解体で生じた災害廃棄物を運ぶ大型トラックが行き交う。隣接する「珠洲ビーチホテル」も、地震以降、復興関連業者の宿泊に限られ、行楽で訪れるには難しい状況が続く。同協会が管理するオートキャンプ場も災害ボランティアが寝泊まりし、「観光は現実的ではない」とみる。

◆奥能登の海開きは1カ所だけ

海水浴場の近くに災害廃棄物の仮置き場があり、大型トラックが行き交う=石川県珠洲市蛸島町で

 観光客をいつになったら受け入れられるのか。「普段の生活を戻した上で、観光客を受け入れるのだとすれば、1、2年で戻るような話ではないのではないか」と淡々と語った。  鉢ケ崎には東京をはじめ県外のリピーターが大勢いる。「ここに来ることが、夏の年間行事になっている家庭も多かった」。「来年か再来年、『おかえり』と言えるように準備をしたい」と復興を誓った。  今夏開設した石川県内の海水浴場は11カ所で、昨年の19カ所から大幅に減った。奥能登地方の2市2町(輪島、珠洲、能登、穴水)では昨年5カ所が開設されたが、今年は能登町の五色ケ浜海水浴場だけが壊れた施設を修理するなどして7月15日に海開きした。


鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。