苦しいときこそ、トップは顔を見せて…  能登半島地震の発生から半年に合わせ、中日新聞社(東京新聞、中日新聞、北陸中日新聞など発行)が被害の大きかった石川県輪島市、珠洲市の被災者約100人に聞き取ったアンケートで、災害時、市長に対して直接のコミュニケーションを求める住民の姿が浮かび上がった。輪島・坂口茂、珠洲・泉谷満寿裕の両市長に対応を振り返ってもらい、東日本大震災を経験した前市長らに、災害時のリーダーのあるべき姿を聞いた。(城石愛麻、榊原智康)

◆「顔を見ないので誠意が伝わらない」 厳しい指摘も

 本紙は5〜6月、輪島、珠洲両市の仮設住宅に住む105人に対面アンケートを実施。行政の対応について尋ねた設問に対して、市長の災害対応に関する意見が寄せられた。不満を訴えた10人は、いずれも輪島市民。同市中心部の仮設住宅に住む50代女性は「避難所にいた間、市長には顔を出してほしかった。顔を見ないので誠意が伝わらない」と厳しい口調で語った。他にもコミュニケーションやリーダーシップ不足への指摘があった。

地震や津波で甚大な被害を受けた石川県珠洲市宝立町周辺。左奥は見附島=1月17日、ドローンで撮影

 一方、珠洲市民からは「住民との意見交換会に市長が来たようでうれしかった」(80代女性)、「復興は進んでいないが、市長はあちこちを回ってそれなりにやってくれているようだ」(80代女性)と好意的な受け止めが返ってきた。  両市長とも各地の避難所を訪問しているが、メディアへの露出には差がある。元日の地震以降、6月中旬までに開いた市長会見の回数を両市に確認すると、珠洲市が59回、輪島市が4回と大きな差があった。

◆「みんなのためにやっているんだ」ということを見せないと

 災害時のリスクコミュニケーションに詳しい名城大(名古屋市)の柄谷友香教授は「トップの顔が見えると市民の安心感につながる。行政と住民が手を携えて復興を目指す時には、首長が何を考え、何を目指しているのか、住民と共有できる状態にするのが重要だ」と指摘。「首長がどんどん発信している地域はボランティアや支援金が集まりやすく市民のためになる」とも語った。  東日本大震災の直前に市長に就任し、3期の任期中、市の復興に携わった前岩手県陸前高田市長の戸羽太さん(59)は「市長が頑張っているところを見せ、住民が安心し、未来に夢を持てるようにしなくてはいけない」と強調した。  震災当時の心境を振り返り、「被災者は下を向いてしまい未来が描けない状態だった。どうやったら顔を上げてもらえるかを常に考えていた」。その上で「住民の感情や要望を受け止め、場合によっては国に対してけんかをふっかけてもいい。『みんなのためにやっているんだ』ということを見せないといけない」と話した。

◆避難所へ出向く時間がもったいない 輪島・坂口市長

 輪島市・坂口茂市長 避難所へ出向くことは皆さんを勇気づけ、安心させるために有効な手だと思っている。私はさらさらっとは回ってきたが、その時間がもったいないという思いでいた。

能登半島地震からの半年を振り返る坂口茂市長=石川県輪島市役所で

 日々決断を迫られた。一日も早い復旧復興を優先すべきか、皆さんの所へ行って話しながら情報を聞くことを優先すべきか考えた。避難所で、運営や人命救助に2日間しっかり関わった。避難所の状況は分かっており、何が必要か、何をやらなければならないかは伝わっていたと思っている。  記者会見については、担当部長、部局からしっかり情報を出した。今になってみると、顔を見せることで安心感があるかなと、もう少し早いうちに思いが回れば良かったというのが反省点だ。(6月28日の記者会見から)

◆情報発信より、市民に寄り添うことしかできなかった 珠洲・泉谷市長

 珠洲市・泉谷満寿裕市長 1月11日から避難所を回り始めた。その後も時間があれば自分で車を運転したり、バイクに乗ったりして避難所などを回っている。ほとんどの地区を回った。

地震発生から半年間を振り返る泉谷満寿裕市長=石川県珠洲市役所で

 1月2、3日には市役所の近くを見て回った。海上輸送で支援物資を受け取ることになった際には、船が接岸できるか確認しに港に行った。市民が今一番必要としていることは何か、現場で状況をつかんで判断した。  ただ、市民への情報発信はなかなか難しかった。被災直後は新聞が十分届かず、停電していた地区ではテレビも見られなかったので、必ずしも記者会見が市民への情報発信にはつながらなかったと思う。  情報発信よりも、市民の皆さんに寄り添うことしかできなかったので、各地域を回るようにした。(7月2日の本紙インタビューから) 

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