能登半島地震の被災者からの要望を受け、解体やリサイクルを手がける会社の若手社長が、解体前の古民家の木材をリメークした家具や小物作りに取り組んでいる。木目や板目がはっきりと浮き出たテーブルやいす…。「古い分だけ住民の思いが詰まっている。少しでも面影を残して再生したい」。地震後、古民家が急速に取り壊されていく中、持続可能な社会にも貢献していく考えだ。(染谷明良)

被災した家屋から引き取った木材を加工して作ったイス=江崎さん提供

◆成形しすぎず、元の形を大切に

 石川県志賀(しか)町富来高田で「古材create(クリエイト)青組」を営む江崎青(あお)さん(34)。地震で大きな被害を受けた輪島市三井町の出身だ。  全壊判定を受け、住めなくなった輪島市門前町の古民家。解体を待つ家には住民の代わりにツバメが巣を作っている。  雨ざらしになった玄関の式台やほこりをかぶった床板。バールで外し、表面を削って金属製の脚を取り付ければ立派なテーブルといすが出来上がる。デザインを重視して成形しすぎない。元の形を大切にする。

◆曲がった木、むき出しの木材…古民家に魅せられ脱サラ

解体前の被災家屋から取り出した木材のリメークに取り組む江崎青さん=石川県輪島市門前町で

 輪島高校を卒業後、大阪市の設計事務所に勤め、大手ビジネスホテルなどを設計していたが「規格が決まっているので、工業製品を作っている感覚。量産型に飽きてしまった」と退職し、昨秋に富来高田に事務所を構え、事業を始めた。  ビルばかり設計してきたからこそ、梁(はり)に曲がった木が使われていたり、木材の組み合わせ部分がむき出しになっていたりする古民家の魅力に取りつかれた。「眺めていると、昔の大工の姿が想像できるし、知恵と職人技を体感できる」

◆「古い物っておもしろい」文化をつくりたい

 解体後の木材の多くはウッドチップにリサイクルされる。「原形が想像できないチップにするのはもったいない」。廃材ではなく宝の山。形あるものに残すために、救い出してリメークする取り組みを始めた。  知人の紹介や交流サイト(SNS)を通して「好きに取っていいよ」と被災者から依頼が舞い込む。地震をきっかけに、古い物や伝統が淘汰(とうた)されていく危機感もある。「『古い物っていいじゃん。おもしろいじゃん』っていう文化をつくっていきたい」。工場で作られた量産型ではない。大工の作業姿や思いが想像でき、住人の愛着がこもった木材の可能性を信じている。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。