「安全確認のため、列車が遅れたことをおわびします」 通勤電車でいつものアナウンスを耳にするたび、踏切に設置されたセンサーが障害物を検知したのでは…などと考える。安全輸送のためなら、わびる必要はないだろう。でも、運転見合わせの原因が人為ミスの場合、話は違う。 先月11日午後から12日早朝にかけ、大阪、京都両府内のJR東海道線(京都線)の3カ所で相次ぎ、通勤客ら約22万人に影響したトラブルは大事な教訓を残した。 3件のうち最後の輸送障害は茨木駅(大阪府茨木市)で起きた。発端は、別の駅での信号トラブルによる運行ダイヤの混乱。大阪の吹田貨物ターミナルが貨物列車で満杯になり、ちょうど埼玉の越谷貨物ターミナルから吹田へ向かっていた貨物列車が急きょ手前で停車しなければならなかった。京都線の運行を管理するJR西日本の輸送指令は、JR貨物の運転士に茨木駅の待避線で止まるように指示。ところが、貨物列車が長すぎて最後尾が待避線から本線へはみ出し、約3時間にわたり後続列車の走行を妨げた。 今回の指令員も無線で運転士に両数を尋ねていた。運転士は「現車両数26両」と回答。機関車が26両の貨車(コンテナ車)をけん引しているとの意味だ。ただ、貨車は1両ごとの長さが異なる場合があり、列車全体の長さを知るには「延長換算両数」が使われる。旧国鉄時代の長さ8メートルの貨車を単位として何両分に相当するかを計算し、輸送指令に伝える取り決めで、問題の列車は66.3両(約530メートル)だった。しかし、指令員は「26両」を延長換算だと思い込み、さらなる確認をせずに茨木駅での停車を指示したため、有効長472メートルの待避線からはみ出す結果を招いた。 JR西は「指令員の知識不足」と認め「周知教育を行う」としている。 「普通なら指令員が聞き直すと思う。確認の会話ができていればトラブルを防げたのでは」と東海道線をよく知る運転士。運行現場では指令員が無線で与えた指示の詳細な内容を乗務員に復唱させる場面も珍しくない。今回、指令員がひとこと「延長換算26両ですね」と問い返せば、混乱を避けられたはずである。 空港でも同様の問題が起きた。国の運輸安全委員会は先月、昨年7月20日に関西空港で起きた重大インシデントの調査報告書を公表。A滑走路での点検作業を終えた車両から無線連絡を受けた管制官がB滑走路と取り違え、伝え聞いた同僚の管制官が点検作業の終わっていないB滑走路へ貨物機の着陸許可を出して衝突の危機を招いたという。滑走路名の復唱など「基本動作の徹底」を求めている。今年1月2日に羽田空港で起きた衝突事故も、無線の取り違えの可能性が指摘される。 安全を巡り、鉄道と航空とで取り組む共通の課題。相互の経験を共有し合うことこそ大切だと思う。(編集局)
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