白神山地で撮影されたクマゲラの親子(本州産クマゲラ研究会提供)=共同

国の天然記念物で、世界自然遺産・白神山地(青森、秋田)のシンボルとされる国内最大のキツツキ「クマゲラ」の目撃情報が本州で途絶えている。盛岡市のNPO法人本州産クマゲラ研究会によると、ここ数年は餌を探したような痕跡はわずかにあるものの姿を確認できず、絶滅が危惧される状況。日本自然保護協会(東京)などは今年1月、本格調査と保護の強化を環境省に緊急要請した。

クマゲラは、真っ黒な体に深紅の頭頂部が特徴で、体長は45センチほどにもなる。北海道のほか本州では北東北に生息するとされる。

1980年代に白神山地を横断する林道計画が浮上した際、クマゲラの生息が確認されたことを機に自然保護の世論が高まり、計画は白紙撤回された。白神山地はその後世界遺産に登録され、クマゲラはその象徴的存在となった。

しかし白神山地での目撃情報は2014年10月が最後。本州でも17年4月の森吉山(秋田)以降は途絶えている。ここ数年は生息や繁殖の痕跡を見つけることすら難しく「幻の鳥」と呼ぶ声も。

40年来、調査を続ける本州産クマゲラ研究会の藤井忠志理事長は、白神山地や森吉山での生息数は多くても計50羽程度まで激減しているとみている。一般的に個体は100羽を切ると近親交配が進むため、存続が困難とされる数字だ。「こんな状況は今までなかった。早く手を打たないと絶滅してしまう」

本州産クマゲラ研究会の藤井忠志理事長(5月、秋田県北部の森吉山)=共同

背景には、開発行為による自然環境の悪化に加え、観光客など多くの人が山に立ち入ることで、知らず知らず生息域を狭めている可能性も指摘される。クマゲラは臆病な性格で、人の気配を感じると営巣地を変え、繁殖を放棄することがある。藤井さんは、重要な営巣地は立ち入り禁止にするなどの対策強化も訴える。

かつては山形と新潟両県にまたがる朝日連峰や福島県の奥只見でも目撃情報があったという。研究会は、最近10年以内の目撃情報の提供を広く呼びかけている。

「クマゲラがすむ森を守ることは、われわれの環境を守ることだ」と藤井さん。もう一度クマゲラに会いたいと願っている。〔共同〕

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