目次

  • POINT「暑さ指数」とは

  • 地方大会の対策は 「暑さ指数」も活用

ことしから環境省は人の健康に重大な被害が生じるおそれがある暑さが予測された場合に「熱中症特別警戒アラート」を発表します。

NHKが、全国47都道府県の高校野球連盟に、この特別警戒アラートが発表された場合の対応を聞いたところ、青森県、宮城県、新潟県、愛知県、岐阜県、三重県、広島県のあわせて7つの連盟はその日の試合を中止し、順延するとしています。

また、26の連盟は中止なども含めて対応を協議するとしたほか、3つの連盟は休憩時間を増やしたりするなどの対策をして試合を実施するとしています。

このほか、4つの連盟は特別警戒アラートが発表されなくても、「暑さ指数」に応じて休憩時間を増やしたり、時間変更や中止を含めて対応を協議したりするなど、独自の対応を決めているとしています。

一方、7つの連盟は対応を決めていないとしていて、その理由を聞いたところ、▽給水時間を設け、ベンチに扇風機をおくなど対策を実施しているためとか、▽試合を中止すると日程を消化できないといった意見がありました。

POINT「暑さ指数」とは

「暑さ指数」は気温のほかに、湿度や地面などからの熱も考慮して算出されていることから、環境省は最高気温だけではなく、暑さ指数を参考にすることでより的確な熱中症予防につながるとしています。

特に湿度が高いと汗が蒸発しにくいため、体の外へ熱を放出する能力が減少し、熱中症のリスクが高まります。

暑さ指数が28を超えると、熱中症患者の発生率が急増するということです。

このため環境省は、▽暑さ指数が33以上と予測される地域に「熱中症警戒アラート」を、▽すべての観測地点で35以上と予測される都道府県には「熱中症特別警戒アラート」を発表して、暑さから身を守ることを呼びかけることにしています。

また、日本スポーツ協会の指針は、暑さ指数が28以上では激しい運動は中止、31以上では運動を原則中止すべきとしています。

地方大会の対策は 「暑さ指数」も活用

夏の全国高校野球の地方大会における熱中症対策についての詳細です。

熱中症特別警戒アラートが発表された場合、試合を中止するとしている宮城県では、すべての球場に暑さ指数の計測器を設置し、試合の途中も随時、暑さ指数を確認して、33以上となった場合は試合の中断も含めて対応を協議することにしています。

また、宮崎県では、開幕後の今月7日に熱中症の疑いで選手が病院に搬送されたことを受けて、県内の観測地点で1か所でも暑さ指数が31以上と予測される場合、試合中に身体を冷やすための「クーリングタイム」を導入しました。

愛知県では、各チームのベンチに持ち運びができるスポットクーラーを用意して選手たちが体を冷やせるようにしたほか、佐賀県では各チームのベンチに冷凍庫を設置して氷を準備して選手たちが自由に使えるようにしました。

また、香川県では気温の高い時間帯を避けるため、ことしは開会式のあとに試合を実施することをやめて午後5時から開始しました。

一方、熱中症特別警戒アラートが発表された際の対応を決めていないとする連盟でもそれぞれの熱中症対策を実施しています。

中には、「試合を中止すると、甲子園までに日程を消化できない」とした上で、「選手が体を冷やす休憩時間を状況に応じて増やすほか、すべての球場にエアコンを設置し、観客に対しても注意を呼びかけている」というところもありました。

「暑さ指数」5段階の独自基準で 山梨

山梨県の大会では、特別警戒ラート発表されなくても「暑さ指数」に応じて休憩時間を増やしたり中止の対応を協議したりするなどの独自の基準を設けて熱中症対策を進めています。

山梨県高校野球連盟では、試合開始前の暑さ指数が
▼28未満の場合は5回終了時に休憩1回、
▼28以上は攻守交代の際にいったんベンチに引きあげて給水時間を確保する、
▼31以上はこれに加えて休憩を1回から2回に増やし、
▼32以上では休憩をさらに増やして3回にする、
▼34以上となった場合は試合の中止を含めて対応を協議するなどとする、独自の5段階の基準を設けています。

実際の試合では

19日、甲府市で行われた試合では、試合前の暑さ指数が27程度で、熱中症の危険度が最も低い区分だったことから、担当者は、5回終了後のグラウンド整備中の休憩で水分補給を十分に行うほか、試合中の健康状態の把握をこまやかに行うように両チームに伝えていました。

また、ことしの一部の試合では気温の高い時間帯を避け、通常、午前11時に開始予定の第2試合を3時間遅らせて午後2時に始める「2部制」を試験的に導入しました。

さらに、すべての試合で選手と審判のために「アイススラリー」という凍らせてシャーベット状にしたドリンクを用意しています。

シャーベット状にすることで体を内部から効率的に冷やし、体温の上昇を緩やかにする効果が期待できるということです。

選手と審判には、試合前と5回終了後のグラウンド整備中に補給するよう勧めています。

19日午後3時前に最高気温、33.7度を観測した甲府市の球場で試合をした選手は「シャーベット状のドリンクを飲むことで体の中がよく冷えるのでありがたい。暑さの影響が軽減されて集中力も高まり、よいプレーにもつながっている」と話していました。

スタンドには「クーラー」も

スタンドから応援する人の熱中症予防にも新たな対策を導入しました。

去年の大会で、スタンドで応援していた野球部員1人が熱中症の疑いで病院に搬送されたことを受けて、県の連盟では、甲府市の球場のスタンドの一角にクーラーがある休憩スペースを新たに設けました。

屋根のないこの球場の応援席では日中に日陰になる場所はほとんどなく、グラウンド整備で試合が一時、中断した5回終了後に、応援の生徒たちが次々に訪れて涼んでいました。

吹奏楽部の高校3年生は「スタンドでトランペットを吹いているが、とても暑いのでこの場所はうれしい。涼んだことで、このあとももっと選手を応援しようという気持ちになった」と話していました。

山梨県高校野球連盟の田代剛久会長は「選手が最高のパフォーマンスを発揮できる環境づくりを意識するとともに、応援に来る人の安全も少しでも守れるよう配慮したつもりだ。今後、アンケートをとるなどして対策の検証を行い、出てきた課題を解消して来年にも生かしたい。選手や観客のみなさんから熱中症になる人を1人も出さないように対策を今後も取り入れたい」と話していました。

“甲子園” 午前と夕の2部制も

一方、8月に甲子園球場で行われる夏の全国高校野球では、ことし、新たな暑さ対策として試合を午前と夕方に分けて行う2部制を一部の日程で導入します。

2部制が導入されるのは8月7日の開幕から3日間で、気温が上がる時間帯を避けてそれぞれ1回戦3試合が行われます。

厳しい暑さの中で行われる夏の全国高校野球では、熱中症の症状を訴える選手も出るなどして2023年からは、5回終了後に選手たちが冷房の効いたスペースで最大10分の休息がとれる「クーリングタイム」が導入されるなど近年、暑さへの対策が進められています。

高野連=日本高校野球連盟などでは、ことしの大会期間中に「熱中症特別警戒アラート」が発表された場合の対応については、開幕前までに協議するとしています。

専門家「どれだけ対策してもリスクある」

早稲田大学 細川由梨准教授

熱中症対策に詳しい早稲田大学の細川由梨准教授は、「熱中症のリスクのある暑さの中で活動しているということを全員が認識し、その上で、活動内容を変えるのか冷却措置を講じるのか、スケジュールを変えるのかなど、事前に話し合いをして関係者で共有することで必要な時に対応がとれる。どれだけ気をつけていても熱中症が起こるリスクはあるため、救命措置ができる環境を整え、緊急時の対応に対する認識を運営側や参加者側が共有しておかなければならない」と話し、球場で暑さ指数の計測器を活用することや、一刻も早く体温を下げるための氷風呂を準備することが有効だと指摘しました。

また、「気候変動や異常気象の中で、どうスポーツ活動を存続させることができるのか、どう変わっていけば持続可能性が高いあり方につながるのか前向きな議論が必要だ。夏に目指すべき大会があると、そのために暑い中で練習を積むという人もいると思うので、大会をどの時期に実施することがいいのか検討すべきなのではないか」と話していました。

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