「SMAP×SMAP」などの人気番組を担当し、放送作家・脚本家として第一線で活動してきた鈴木おさむさん(51)が3月末でそれぞれの仕事を辞めた。激変するエンタメ業界や旧ジャニーズ事務所の性加害問題をどう捉えていたのか。引退を機に語ってもらった。(西田直晃)

◆「よりニッチで、より深みのある面白さが勝つ」

 鈴木さんは19歳のころ、ラジオ番組の放送作家としてデビュー。以来、テレビバラエティーを中心に多くの人気番組の構成を担い、映画やドラマの脚本、小説の執筆など、幅広いジャンルで活動してきた。  「テレビというツールに限定すれば、SMAPやダウンタウン、とんねるずのような旧来型のスターはもう出てこない。マスの熱狂の時代はもう終わり」

表現の多様性について話す元放送作家の鈴木おさむさん=東京都目黒区で

 インタビューのさなか、鈴木さんはこう断言した。  スマホの全盛期。誰もが夢中になるテレビ番組は減っていくという。「もう無理でしょう。好みの細分化を受け入れないといけない。視聴率も世帯型から個別型に変わり、よりニッチで、より深みのある面白さが勝つようになる。1000万人の認知度より、1万人の熱狂のほうが強くなる」  その前提で現代のスター像をこう説明した。「芸人はテレビに出なくてもいいし、1万人を動員するライブツアーができて、チケットが8000円で売れる人の方が今の時代にふさわしい。単独ライブのように好きなことをやりつつ、お金を稼ぐというのが夢になり得る。大衆ではなくコミュニティーのスターでしょうね」

◆「今の時代に笑えないものを放送してもしょうがない」

 ネットとテレビの関係性に思うところがある。「ネット側はテレビをすごくリスペクトしているが、テレビ側はネットに妙なライバル意識を持っている」のが歯がゆい。「そもそも収入を得るビジネスモデルが違う。テレビはいったん『負けた』と言った方が楽な気がする。確かに若い世代はテレビを見ないけど、スマホと連動すればもっと遊びのある番組が作れるのに」

表現の多様性について話す元放送作家の鈴木おさむさん=東京都目黒区で

 ここ数年、番組制作の現場にくすぶる「コンプライアンスが厳しい」という声には持論がある。「実際は世の中の感覚が本格的に変化している」。3月まで講師を務めた明治学院大で若い学生にアンケートを取った。「昔の『痛みを伴う笑い』は圧倒的にノーだった。僕らの世代とは受けた教育や道徳感情がまるで違う」と語り「個人が生理的に嫌いなこと、面白くないことをSNSで簡単に発信でき、スポンサーにすぐに届く。コンプライアンスのせいではなく、今の時代に笑えないものを放送してもしょうがない」と続けた。  旧ジャニーズ事務所の創業者の性加害問題をどう見ていたのか。「世の中の人と同じレベルで認知していました。中学生のころに告発本を読んでいたし、裁判で性加害が認められたことも雑誌に出ていた。でも、見過ごしていた」と振り返った。「本当はそんなことないだろうな、触れてはいけないな、とか。魔法にかかっていた感じ。全てがうわさで、具体的には何も聞いていない。結果的に見て見ぬふりをしてきたということだから、僕はみんなと同じ立場。共同責任だと感じています」

◆「僕も感情によって、あの出来事への意見が変わる」

 引退の置き土産として書籍を出版した。「最後のテレビ論」、SMAPの解散騒動をテーマにした”小説”「もう明日が待っている」(ともに文芸春秋)だ。  2016年の解散後、鈴木さんは120%の力が入りにくくなったことなどから一線を退く決意をした。「(当時の心境は)あの本に書いてある通り。自分の気持ちを閉じ込める思いで作品にしました。僕も感情によって、あの出来事への意見が変わる。それが嫌なので、気持ちを整理しながらあくまでも『小説』という形で書きました」。今後はベンチャー企業の支援を手がけるという。 

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