石川県珠洲(すず)市正院町小路(こうじ)のピアノ講師・細川里美さん(44)が、能登半島地震で被害を受けた住宅のピアノを2次避難先の金沢市に運び、子どもたちと絵付けして被災地に戻し「地震を忘れないための象徴」とする企画が進んでいる。13日には珠洲市の2カ所で、思い出の詰まったピアノの運び出し作業があった。(上井啓太郎)

◆2次避難する子どもたちと一緒に絵付け

 細川さんは珠洲市で11年前からピアノ教室を開いている。生徒は40人ほどで、昨年末に恒例の発表会を開いたばかりだった。元日の地震で、細川さんと夫が住む自宅は倒壊。正院小学校などで避難生活を送り、3月20日、金沢市のみなし仮設のアパートに移った。

被災家屋から運び出されトラックの荷台に載せられたピアノを見守る細川里美さん(左)=13日、石川県珠洲市正院町小路で

 教室は休業。連絡を取り合っている生徒たちから「今年は発表会あるの?」などと再開を楽しみにする声を聞き、「被災した子どもたちが話したいことを話せる遊べる場を提供したい」と、避難している英会話講師の友人と、工作や音楽を使った遊びをする教室を、5月に金沢市で始めた。  細川さんは昨年5月の地震後も被害家屋からピアノを取り出し、近隣のピアノが欲しい家庭に移す活動をしていた。元日の地震後も「家を解体するが、欲しい方に譲れないか」と相談を受けたが、今回はあまりに地区全体の被害が大きく引き受け手も探せなかった。そこで一度金沢市に運び、2次避難する子どもらと絵付けをする企画を考えた。

◆「だれかが使ってくれるなら、気持ち楽になる」

ボランティアたちの手で被災家屋から運び出されトラックの荷台に載せられるピアノ=13日、石川県珠洲市正院町小路で

 正院町小路の秋前一雄さん(76)の家の応接間からも、大阪府からのボランティアなどの手でピアノが運び出された。ピアノは50年ほど前に買った。自宅は大規模半壊で公費解体する予定で、妻の敬子さん(73)は「本当は家は壊したくなかった」と残念がりつつ「もう弾かなくなって何十年にもなるピアノだけど、それだけでもどこかにあって使ってくれると思うと、気持ちが楽になる」と笑った。  細川さんは「震災があったことを忘れられたくない。シンボルになるよう、被災地に置いてほしいと思う」と力を込めた。今後、ピアノは絵付けし、8月30日午後3時には金沢駅で完成記念の演奏も予定する。その後、1台は珠洲市飯田町のいろは書店に置くことが決まっているという。 

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