民間のシンクタンク「地域公共交通総合研究所」は、ことし4月から時間外労働に上限規制が適用された、いわゆる「2024年問題」の影響などを調査するため、5月から6月にかけて全国のバスや鉄道、それに旅客船の事業者、およそ500社を対象にアンケート調査を行い、93社から回答を得ました。
この中で、4年前、2020年度に比べて乗務員や運行にあたる従業員の数が、減少したか尋ねたところ、ほぼすべての事業者が「減少した」と答えました。
このうちバス事業者で見ると、減少の割合が
▽0%から10%だったのが、およそ3割
▽10%から30%が、およそ6割
▽30%以上が1割となっています。
一方、「2024年問題」の影響について、自由記述で尋ねたところ、
▽「深刻なドライバー不足による事業継続危機に直面しているが、抜本的な対策はできていない」
▽「貸し切りバスの兼業をしているが、夜間の送迎が受けられなくなってきている」
などと、ドライバー不足が深刻な実態が浮き彫りになっています。
「地域公共交通総合研究所」の小嶋光信代表理事は「バスが減るだけでなく運転手が辞めており、大変な状況が続いている。客はいるが、供給が間に合わない。業界全体として修学旅行や遠足などでバスの供給は、いままでどおりできなくなるのではないか。修学旅行の時期を分散させるなど、行政などと連携した取り組みが必要だ」と話しています。
札幌の観光バス会社 ドライバー不足に直面
夏休みシーズンを前に、札幌市の観光バス会社は、ドライバー不足に悩んでいます。
インバウンド需要の回復で、札幌市の観光スポット「札幌市時計台」などでは、連日、海外からの多くのツアー客でにぎわっています。
観光バスで北海道内を巡っている台湾からのツアー客は「北海道は景色がきれいで、とても楽しかったです」と話していました。
こうした中、観光バス会社が直面しているのがドライバー不足です。
札幌市清田区にある観光バス会社は、バス37台を保有していますが、ドライバーは33人にとどまり、フル稼働することができない状態です。
旅行会社などから予約の問い合わせが相次いでいますが、ドライバーが足りず、数か月先まで予約を受けられない状況が続いています。
取材したこの日も、旅行会社からバスの空き状況の問い合わせがありましたが、すでに修学旅行の予約が入っているため断らざるをえませんでした。
北海道バス協会によりますと、去年9月末時点でのバスの運転手の数は、北海道内で5417人と、コロナ禍で仕事が減少したことから、2019年9月末と比べて1000人近く少なくなっています。
さらに、ことし4月からはドライバーの時間外労働に上限規制が適用され、人手不足が深刻化する、いわゆる「2024年問題」が拍車をかけています。
そこで、この会社では、ドライバー不足の現状を打開しようと、未経験者の採用に力を入れています。
同業他社との人材獲得競争が激しくなる中、会社では、およそ50万円かかることもあるという大型2種免許の取得費用を負担する制度を、新たに設けました。
観光バス会社「札幌観光バス」の谷野弘和専務は「東京や大阪のバス会社と比べると待遇はよくないかもしれないが、人手不足の解消に向けて未経験の人など、同業ではない人を集めることが重要になってくる」と話していました。
北海道の利尻島に 沖縄から運転手とバスガイドが
観光需要が回復する中、1台でも多くバスを稼働させるため、北海道北部の離島では“助っ人”が活躍しています。
遠く離れた沖縄県から派遣されたドライバーたちです。
北海道北部にある利尻島。
「利尻富士」と呼ばれる、利尻山のふもとに広がる雄大な景色や、豊かな海産物が人気の観光地です。
特に夏は涼しく、高山植物も見頃なことから、多くの観光客が訪れています。
島には、ことし5月から9月にかけて、沖縄県のバス会社から3人の運転手と、5人のバスガイドが派遣され、観光バスで島内をめぐるツアーを担っています。
会社によりますと、沖縄県はこの時期、航空運賃が高騰し、個人旅行が中心となることから、観光バスを利用した団体旅行は減少するということです。
一方、北海道の観光シーズンは今が真っ盛りで、観光バスの需要が高まり、ドライバーやガイドの人手が足りなくなります。
双方の繁忙期と閑散期が入れ替わることから、9年前から交互に出向する今の仕組みが始まりました。
利尻島で観光バスを運転している玉城純さんは、ふだん沖縄県で観光バスのドライバーをしています。
ことし5月から利尻島に入り、会社が用意した宿舎で生活しながら観光バスの運転をしているということです。
沖縄県から来た同僚3人と暮らしていて、「驚くような寒さで、朝晩が寒くてストーブを使うこともあります。ただ、夕飯にホタテやラム肉を差し入れてもらえることもあります」と話していました。
宗谷バスの中場直見社長は「従業員が減る中で、沖縄県から運転手を送っていただいているのは本当にありがたいし、私たちもお返ししたい。沖縄は、秋以降は修学旅行生が多く、なかなかバスが確保できないと聞いているので、少しでもお役に立てればと思っています」と話しています。
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