石丸伸二氏の東京都知事選出馬を受け、5月、映画「#つぶやき市長と議会のオキテ【劇場版】」の公開が都内では1週間で打ち切られた。石丸氏が広島県安芸高田市長だった当時、彼の「つぶやき」が引き起こした議会とのあつれきを追ったドキュメンタリーで、限定公開になった背景について専門家は「映画ではなく、選挙報道を手控える新聞やテレビの側の問題が大きい」と指摘する。

「#つぶやき市長と議会のオキテ【劇場版】」から=©広島ホームテレビ

◆都知事選出馬表明で都内では1週間だけに

 製作は広島のローカル局、広島ホームテレビ。2022年に放送した50分番組に取材を加えて劇場用に再構成した。2020年、河井克行元法相の買収事件にからみ、現職の辞職を受けて行われた安芸高田市長選で石丸氏が初当選。X(旧ツイッター)で積極的に情報発信し、副市長の公募など斬新な政策を打ち出す一方で、議員に対して議場での居眠りをXで批判(後に居眠りは病気だったと議員が会見)、「国語のテストなら0点」など見下すような発言を連発した。一方の議会側は市長肝いりの議案を相次いで否決し、溝は深まってゆく。映画は石丸市長と議会の対立を軸に、地方自治や政治の現状をあぶり出す。監督は同局記者の岡森吉宏。  映画はそもそも5月25日公開の予定だったが、5月16日に石丸氏が都知事選への出馬を表明。17日、広島ホームテレビと配給のきろくびとは「有権者の行動に影響することが少なからず懸念されるため」として都内での公開を月内で終了すると発表した。

◆プロデューサー「地方政治のど真ん中を目指した映画」

公開2日目の5月26日、チケット完売を知らせるチラシ=東京・東中野のポレポレ東中野で

 公開2日目の5月26日、東京・東中野のポレポレ東中野で映画を見た人に感想を尋ねた。  「石丸さんをユーチューブで見てポンコツ議会を叱咤激励(しったげきれい)する、革命を起こしてくれる人だと思ったのに、だんだんと『人をバカにしている』と感じるようになった。そんな人の映画が上映されて盛り上がったら嫌だなと思って見に来たけれど、この映画を見ても石丸さんのファンにはならないと思った」(都内在住の50代女性)  「ユーチューブで石丸さんのことを知っていた。ユーチューブは切り取りだけれど映画ではもう少し素の部分を見られ、ユーチューブよりも親しみがわいた。印象は良くなった。映画を見て知事選で応援したくなる人もいるのでは」(埼玉県在住の50代地方公務員男性)  同じ映画を見たとは思えない、真逆の感想が聞かれた。テレビと違い、映画はわざわざ劇場に足を運びお金を払った人だけが見るのだから、公開を中止する必要はないのでは-。  広島ホームテレビの立川直樹プロデューサーは「石丸氏の都知事選出馬はまったく知らなかった」とした上で、上映期間を限定した理由として、公平な選挙報道を求められるテレビ局が製作主体であることと、都知事選の観点でこの映画が見られるのは「本来の狙いと違う」ことを挙げた。「映画は石丸氏個人を論じようとしていないし、彼を観察し、地方政治でどのように意思決定が進むのかなどを描いたもの。地方政治のど真ん中を目指した映画なのに、国政に近い知事選の文脈で語られてほしくない」

◆識者「限定公開の裏に、選挙期間中の報道の問題」

上映後に映画について話す広島ホームテレビ記者の岡森吉宏監督(右)と山田健太教授=東京・東中野のポレポレ東中野で(5月26日)

 都知事選で石丸氏が160万票以上獲得し2位になったことについて「直接取材をしていないのでなんとも言いようがないが、たくさん票を取ったので驚いている」と立川プロデューサー。「ぼくらの想像を絶するくらい短い動画が出回っていたので、政治だけに限らないが、(映画のように)ある程度の時間しっかりと見て考える機会は貴重で大事ではないかと感じた。彼自身を描いた映画ではないが、地方政治、あるいは日本の政治において起こりうる状況を描いているので、都知事選で関心を持った人に見てもらえたら。考える材料になるのではないか」  山田健太専修大教授(言論法)は作品について「政治とは、政治家とは何かを問う作品。自分の主張に合わないメディアを切り捨てる市長の手法は民主主義を壊す危険性を秘めており、スクリーンにさらけ出すことで見えてくるものがある点で映画にした意義は大きい」と評価。その上で、テレビや新聞の選挙報道が萎縮する中でこの映画が公開されると、この作品が「唯一の情報源」となり、内容と関係なくひとり歩きしてしまう可能性を指摘する。  「今回の選挙期間中、安芸高田市での石丸氏と議会との関係、市長会見の様子などをテレビや新聞はほとんど検証しなかった。その状況で映画だけが上映されると、この作品が候補者を『宣伝』する映画になる可能性があり、また内容にかかわらず候補者の映画が『上映された』こと自体も『宣伝』として使われ、得票につながったかもしれない。映画が上映できないのは映画の問題でも製作側の問題でもなく、選挙期間中にあしき『公平性』に縛られ報道を手控える、新聞やテレビの側の問題だ」  つぶやき市長が投げかけた問いは、テレビや新聞にも向けられている。

◆厚木や宇都宮では公開中 都内の再上映は未定

「#つぶやき市長と議会のオキテ【劇場版】」から=©広島ホームテレビ

 都内での再上映は未定。あつぎのえいがかんkiki(神奈川県厚木市)、宇都宮ヒカリ座(宇都宮市)で公開中、横浜シネマリン(横浜市)で7月20日から上映予定。  広島ホームテレビは、安芸高田市民が石丸市政をどう見てきたのか、今後まちをどうしたいのか、コメントを集めた番組「1min. 安芸高田 〜つぶやき市政と市民のホンネ〜」を7月14日に放送、局の公式ニュースユーチューブにアップする予定。 

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