海上自衛隊の哨戒ヘリコプター2機が衝突し墜落した事故で、海自の事故調査委員会は9日、乗員の見張りが不十分で指揮官同士の連携も不足していたとする調査結果をまとめた。機体の不具合や天候の影響はないと判断した。海自は報告書を受け、ヘリ運用時の安全確保策を見直す。中止していた複数の同型機による訓練を順次再開する。

事故は4月20日午後10時半すぎ、伊豆諸島の鳥島東方海域で起きた。潜水艦の探知・追尾を想定し、現場付近を哨戒ヘリ3機が飛行。うちSH60Kの2機が衝突し、乗員計8人が死亡した。作戦遂行能力を評価する「査閲」の一環として実施した訓練だった。

調査委は事故原因の究明に向け、現場から回収したフライトレコーダー(飛行記録装置)を分析し関係者からも当時の詳しい状況を聞き取った。

衝突したのは大村航空基地(長崎県)所属の「8416号機」と小松島航空基地(徳島県)所属の「8443号機」。報告書によると、当時8443号機は海面からの一定の高度を保って直進。8416号機が高度を下げながら時計回りに旋回し、2機が衝突した。

フライトレコーダーの解析では2機とも互いの存在を認識しながら、衝突まで回避操作が取られていなかったことが判明した。8443号機は衝突2分前に8416号機の方位と距離を把握していた。8416号機も事故約10秒前の時点で8443号機を視認したという。

報告書は原因として安全運航の基本となる乗員の見張りが不適切だったとした。視認した目標に関する機長への報告や乗員間での情報共有が十分に行われていなかったという。それぞれが相手機との距離を誤認した可能性があるとした。

高度管理も不十分だとした。2機はそれぞれ別の指揮官の下で訓練に参加し、指揮官は衝突回避のため高度差を確保するようヘリ側に指示していなかった。2機は同じ敵役の海自潜水艦を探索中だったが、指揮官は互いにその状況を明確に伝えていなかった。

海自は2021年、鹿児島県奄美大島沖で起きた哨戒ヘリの接触事故を受け、接近して飛行する際は見張りや高度差の確保を徹底する再発防止策を講じた。しかしこの対策は複数の指揮官が関わるケースは想定していなかった。

今後は異なる指揮官の下でも対策が守られるよう、高度差確保に関する責任をより上位の指揮官に統一する。「目視による見張りには限界がある」として、衝突防止につながる装備品について将来的な導入も視野に検討する。

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