国賓として英国を訪問した天皇、皇后両陛下は滞在最終日、20代のころにともに学んだオックスフォード大を私的に訪れ、青春の思い出を語っていた。お二人でしばしば語り合うこともあったという同大をそろって訪問するのは初めて。陛下は、留学中に自ら選んで買ったネクタイを締め、留学中に暮らした部屋や牧草地など思い出の場所をお二人でめぐった。

 「このオックスフォードでみられるような、国を越えたつながりが、やがて世界中の人々との前向きな関係を紡ぎ出すものに発展していけば、私にとって大きな喜びです」

 6月28日、同大で開かれた昼食会で、陛下はこう述べた。ともに同大への留学経験がある皇后雅子さまとそろっての再訪は念願がかなった形だった。

 スピーチは、陛下のオックスフォードへの思いが詰まったものとなった。陛下は「入学時の新しい生活への期待と不安の入り交じった複雑な気持ち」「帰らざる人となられたハイフィールド先生とマサイアス先生とのやりがいを感じるとともに愛にあふれたチュートリアル」「仲間と飲んだコーヒーの香り」などの思い出を挙げ、「オックスフォードのありとあらゆるものに、瞬く間に過ぎ去っていった2年間の思い出がぎっしりと詰まっています」と懐かしんだ。

 また、「雅子と私は、オックスフォードで経験した何ものにも代え難い日々について、しばしば楽しかった思い出を語り合います」と述べ、同大がお二人に与えた「比類ない豊かな機会とすばらしい思い出を、これからも大事にしていきたい」と続けた。

 この日の朝、ロンドンの宿舎を発った両陛下の車列は午前11時半すぎ、皇后さまが学んだベーリオール・カレッジに到着。両陛下はクリストファー・パッテン同大総長らに出迎えられた。同カレッジではアダム・ロバーツ名誉教授、デニス・ノーブル名誉教授ら皇后さまの恩師らゆかりの人と再会した。

 午後には皇后さまに名誉法学博士号が授与された。91年に天皇陛下も贈られた名誉学位だ。授与式には、両陛下は赤のガウンを羽織って入場。東京大、ハーバード大でも学んだ皇后さまが、ベーリオール・カレッジでも優秀であったことや、さまざまな言語に精通し、相互理解の増進に貢献したこと――。式の中では、授与の理由がラテン語で述べられた。

 陛下が所属したマートン・カレッジにも足を運んだ。両陛下は車から降りると、集まった人たちに手を振りつつ、和やかな表情でしばしの散策を楽しんだ。同カレッジではチャペルなどを見学し、待ち受けた学生や職員らにも声をかけた。留学当時、陛下が暮らしていた部屋をお二人で訪れ、顔を寄せ合って窓から手を振った。緑が美しい牧草地のメドーを眺めることもできたという。

 同日夕、ブライズ・ノートン空軍基地から政府専用機で帰国の途についた両陛下は、羽田空港到着と同時に感想を公表。そこには「思い出に満ちた場所を再訪することができるとともに、懐かしい方々にお会いできたことは、大変うれしいこと」だったとして、「ロンドンと同じように、心温まる充実した滞在になりました」と振り返った。(中田絢子)

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