北海道・知床半島沖で2022年4月、観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没し20人が死亡、6人が行方不明となった事故で、乗客14人の家族ら計29人が3日、運航会社「知床遊覧船」(斜里町)と桂田精一社長(61)に計約15億円の損害賠償を求め、札幌地裁に提訴した。事故を巡り、乗客家族による提訴は初めてとみられる。
弁護団が同日、記者会見し、桂田氏について「安全管理規程などを順守すべき極めて高度な注意義務があり、当日運航したのは豊田徳幸船長(当時54)との共同不法行為に当たる」と主張。運航会社に関しては、船舶所有者の賠償責任を定めた商法の規定を請求の根拠とした。
佐藤敬治弁護士は「桂田氏が、安全管理規程によって幾重にも定められたルールをことごとく無視したことで起きた」と述べた。乗客家族らもオンラインで会見し「(桂田氏に)しっかり責任を取ってもらいたい」といった声が紹介された。
訴状によると、桂田氏は同社の安全統括管理者と運航管理者を兼ねていたが、実際には経験がなく、法令の定める資格要件を満たしていなかった。同業他社よりも早くシーズンの運航を開始しており「利益優先で安全を軽視する姿勢がうかがわれる」と主張している。
また、事故当日はハッチのふたが閉鎖できない不具合があった上、出航中止の条件を上回る風や波が予想された。さらに豊田船長は他社の船長から「今日は駄目だぞ」と伝えられたにもかかわらず、桂田氏と協議して出航を決めたとしている。
桂田氏は取材に船体の異常は知らなかったと答えたほか、昨年夏ごろには、乗客家族に文書で謝罪した上で「出航の最終判断は船長が行った」「船体点検の責任者は船長」と説明していた。
乗客家族とは別に、死亡した甲板員の曽山聖さん(当時27)の両親が昨年2月、会社側に計約1億1900万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴。会社側は請求棄却を求めた。
カズワンは22年4月23日に観光名所「カシュニの滝」の沖合で沈没した。海上保安庁は業務上過失致死の疑いで桂田氏らを捜査している。〔共同〕
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