約100年前に発生した関東大震災後に虐殺された朝鮮人らを悼む式典の実行委員会が東京都知事選(7月7日投開票)の立候補者に対し、知事として追悼文を送る意思があるかどうかについてアンケートを実施した。2017年から追悼文送付を見送っている現職の小池百合子氏(71)は引き続き送らない意向を示す一方、前参院議員の蓮舫氏(56)は送ると表明。過去の歴史にどう向き合うかを巡って対応が分かれた。(渡辺真由子)

 朝鮮人虐殺 1923年9月に起きた関東大震災直後の混乱の中で、自警団や軍、警察の一部が朝鮮人らを暴行、殺害した事件。東京や神奈川を中心に起きた。「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などとする流言をきっかけに、非人道行為が相次いだと伝えられる。中国人や社会主義者の日本人も犠牲になった。政府は「政府内に事実関係を把握できる記録がない」との見解を示している。政府の中央防災会議は2009年の報告書で、震災の10万5000人余りとされる死者のうち、虐殺による朝鮮人らの犠牲者は「1〜数%」と見積もっている。

◆小池氏、蓮舫氏、田母神氏ら6人回答

 実行委によると、追悼文を「送付する」と回答したのは蓮舫氏。理由について「震災でせっかく救われた命が、人災によって失われた。痛ましい歴史だと思っている」「追悼文を送らないという姿勢は歴史修正主義という見方をされてしまうリスクがある」とした。

虐殺された朝鮮人を悼み、日朝協会東京都連合会などによる実行委員会が追悼碑前で開いた式典で献花する人たち=2023年9月1日、東京都墨田区の都立横網町公園で

 小池氏は「送付しない」と明言。「(都慰霊協会が主催する)慰霊大法要において、先の関東大震災および大戦で犠牲となった全ての方に哀悼の意を表してきた。震災による極度の混乱下での事情で犠牲となった方も含め、全ての方々に対し、慰霊する気持ちを改めて表すもの」と説明した。  同じく「送付しない」としたのは元航空幕僚長の田母神俊雄氏(75)。「大震災という天災に、加害者と被害者を固定化することは行政責任者としてふさわしくない」としている。

◆2日時点で安野氏、清水氏ら37人が未回答

 実行委は立候補者のうち、連絡先不明の13人を除く43人にメールやファクス、交流サイト(SNS)を通じてアンケートを送付。小池、蓮舫両氏ら6人から回答があったが、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏(41)や人工知能(AI)エンジニア安野貴博氏(33)、タレントの清水国明氏(73)ら37人からは2日時点で回答が届いていない。石丸氏は告示前日の6月19日の記者会見で「(送付する考えが)ある。行政の組織として歴史認識を持ち、意思を示すのは当然必要なやりとりだ」と述べている。 アンケート結果を公表している実行委のホームページ

◆歴代知事が追悼文、小池氏は就任2年目に取りやめ

 日朝協会や都議会全会派の代表などは1973年、朝鮮人犠牲者の追悼碑を都立横網町公園(墨田区)に建立。大震災当日の9月1日、碑の前で追悼式典を開き、歴代都知事が追悼文を送ってきた。  しかし、小池氏は就任2年目の2017年に追悼文送付を取りやめた。その後は一度も追悼文を送っていない。実行委は小池氏の対応について「歴史的事実を否定していると捉えられる姿勢だ」と批判し、送付再開を求めてきた。  東京造形大の前田朗名誉教授(人権論)は「官民で追悼碑をつくり、歴史に向き合ってきたことは世界的に見ても非常にいい事例」と評価。追悼文については「(送付しないのは)歴史的事実から目を背けるもので、過去の人権侵害になり、ひいては現在の人権侵害にもつながる」と指摘した上で、新知事には「行政のトップは歴史認識に向き合う基本姿勢が必要となる」と注文する。 

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