小林製薬(大阪市)の紅麹(べにこうじ)サプリメントの摂取後に健康被害が報告された問題で、同社は新たに76人の死亡について摂取との関連性を調べていると明かした。3月に厚生労働省へ死者数を5人と伝えて以降、一度も報告していなかった。当初の公表遅れに続き、繰り返された後手の対応。同社に加え、厚労省にも冷ややかな視線が向けられる。(山田雄之)

◆小林製薬は3月に5人死亡と報告した後、情報を更新せず

武見敬三厚生労働相=6月、千葉一成撮影

 6月28日にぶら下がり会見をした武見敬三厚労相。「詳細を調査させて、27日になって初めて全体像が示された。私としては極めて遺憾。もう小林製薬だけに任せておくわけにはいかない」。そんな言葉を口にし、怒りをあらわにした。  厚労省によると、コールセンターの規模を縮小する話を知った同省は6月13日、小林製薬に詳細を問い合わせた。この際、紅こうじサプリとの関連が疑われる通院や入院の報告人数が増える中、死者の報告数が3月29日の5人から変わっていなかったことから、改めて確認した。3月の報告分以外にもあり、同社が調査していることが判明したため、その後に詳しく報告を受けたという。

◆「報告の方針を変更」…厚労省は「聞いていない」

 小林製薬が6月28日に更新したサイトによると、これまでに死者170人の遺族から相談が寄せられ、うち94人が摂取していないことや、医師の診断で関連がないことが確認された。調査中の76人の死亡原因は腎疾患関連だけでなく、がんや脳梗塞、肺炎なども含まれるという。  小林製薬は死者数の報告を5人でとどめていたことについて、当初は速報性を重視して申告に基づいて死者数を公表したが、その後はサプリと腎疾患の関連性が明らかになった人だけを報告する方針に変更していたとしている。

小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」

 同社の担当者は「こちら特報部」の取材に「調査をしっかりした上で報告するつもりだった」と説明した一方、厚労省の担当者は「方針変更は聞いておらず、日々の報告の中で上がってくる情報だと思っていた」と首をひねる。

◆説明責任を怠った小林製薬

 紅こうじサプリを巡る問題は、当初から後手の対応が指摘されてきた。  小林製薬が医師からの連絡で健康被害の恐れを把握したのは1月中旬だったにもかかわらず、公表と自主回収は3月下旬まで遅れ、消費者側の摂取に歯止めが利かなかった。  今回の対応遅れを巡り、日本大危機管理学部の福田充教授は「すでに自主回収が進んでいる」と当初の後手との違いに言及しつつ、「命に関わる問題。消費者が不安を抱えている中、説明責任を怠った」と指摘し「小林製薬への社会の不信感は増している。今後の対応にも疑念を持たれかねない」と危ぶむ。  同志社大の太田肇教授(組織論)も手厳しく、「小林製薬に保身があったのではないかと勘繰られても仕方がない」と断じる。  その上で「『因果関係が明らかになった範囲で、問題を大きくせずにとどめたい』という組織防衛の考え方は短絡的だ。本来あるべき企業統治や社会的責任の取り方と懸け離れている」と批判する。

◆「厚労省こそ脇が甘い」

 では、食の安全を担う厚労省に不信感を抱かせる対応はなかったか。  武見厚労相は冒頭の言葉のように小林製薬へのいら立ちをあらわにしたが、東京大の唐木英明名誉教授(食品安全)には「怒っているポーズを示して、自分たちのミスを隠そうとした」と映るという。  「初めから小林製薬に『全てを報告するように』と明確に伝えればよかった。徹底することを怠り、報告してきた数字をうのみにして発表し続けた厚労省こそ脇が甘い」 

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