北海道弟子屈町の「川湯の森病院」が、温泉熱を活用してコーヒーを栽培している。「北緯43度の日本最北で生産されるコーヒー豆」といい、患者の健康を願って12年前に始めた自給自足の取り組みの一環。昨年3月には、収穫した豆を焙煎(ばいせん)して初めてドリップバッグも販売した。まだ収穫量は少ないが、地域住民や道内のコーヒー好きに親しまれている。(共同通信=吉野桃子)
5月中旬、病院敷地内の温室では白く小さなコーヒーの花が満開だった。順調に育てば半年ほどで実が収穫できると、病院を運営する医療法人共生会(ともにいきるかい)の渡辺明子(わたなべ・あきこ)企画広報部長は話す。数にばらつきはあるが、年に数回、花や実が付くという。
共生会の斎藤浩記(さいとう・こうき)理事長の「患者さんの健康や環境に配慮し、食やエネルギーを自給自足したい」との思いから、2012年に完成した新棟のそばに温泉熱を活用した温室を設置。入院患者向けにメロンの収穫体験も企画し、取れた野菜は病院食で提供するほか、香りが入院患者の適度な刺激になればと、コーヒーの栽培にも取り組み始めた。
近くの温泉源で温めた湯を循環させてつくった温風を温室内に送り、冬場も室温17~20度に保たれている。当初は湿度や温度にむらが出て木や葉が枯れてしまったが、試行錯誤を重ね、2019年から5年間で、9本の木から計約5.7キロの実を収穫した。
「苦労して作ったものを味わってほしい」と近隣のコーヒー専門店に焙煎(ばいせん)を依頼し、40杯分のドリップバッグが完成。1杯分で千円という値段ながら1週間で完売した。
満開の花が無事に実となれば、来年3月にも再販したいといい、渡辺さんは「利益を出すことは考えていない。コーヒーが患者さんの楽しみになったり、コーヒーを通じて病院の取り組みを知ったりしてくれたら」と顔をほころばせた。
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