米国版はやぶさと呼ばれる米航空宇宙局(NASA)の探査機オシリス・レックスが昨年9月に持ち帰った小惑星ベンヌの砂や石が夏ごろ、日本にやって来ます。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機はやぶさ2が2020年12月に地球に届けた小惑星りゅうぐうの砂との交換です。小惑星は「太陽系の化石」とも呼ばれ、太陽系ができたころの姿を残しているとされます。二つの小惑星の特徴が詳細に比較できるようになり、太陽系の謎を探る研究は新たな段階に入ると期待されます。(増井のぞみ)

◆NASAにもない

小惑星ベンヌの砂を扱うため新設された施設。中央のクリーンチャンバーで、防護服姿の研究者たちが模擬試料を扱う練習をしていた=相模原市のJAXA宇宙科学研究所で

 JAXAは6月5日、ベンヌの砂を受け入れるため宇宙科学研究所(相模原市)に新設した施設を公開しました。  施設内はほこりがたまらないように天井や床はグレーチング(金網)構造になっています。分析する砂の試料を大気に触れさせず扱える装置「クリーンチャンバー」があり、掃除機のように試料を吸い付ける「真空ピンセット」などで砂を運びます。顕微鏡で観察しながら写真を撮るなどして試料の砂の「カタログ」を作ります。年内に国内外の研究者を対象に砂を配り始めて詳細な分析を進める計画です。  今回新たに砂に赤外線を照射して含水量や有機物の特徴を記録できる分析装置を作りました。JAXAの臼井寛裕(ともひろ)・地球外物質研究グループ長は「りゅうぐうの砂を分析した経験を十二分に生かした。この装置はNASAにもない」と胸を張ります。

◆生命材料

小惑星りゅうぐうに着陸して砂を採取する探査機はやぶさ2の想像図=池下章裕さん提供

 日米の宇宙機関がそれぞれ探査した小惑星には、共通点があります。地球と火星の間の軌道を公転しており、炭素のほか、生命の材料となりうる有機物や水を多く含んでいます。  はやぶさ2は14年に打ち上げられ、18年にりゅうぐうに到着。その半年後、オシリス・レックスがベンヌに着きました。すると、NASAの研究者が「りゅうぐうと間違えて行ったのか」と驚くほど、見た目がそっくりのそろばん玉の形でした。ただし大きさは異なり、りゅうぐうは直径900メートルに対し、ベンヌはその半分ほどでした。  はやぶさ2は、地表に円筒形の採取装置を当てて弾丸を撃って舞い上がった砂を計5・4グラム採取しました。一方、オシリス・レックスは、地表にアーム状の採取装置を当てて窒素ガスを吹き付ける方法で121・6グラムの砂を集めました。日米の協力覚書に基づき、JAXAとNASAは、りゅうぐうの砂0・5グラムとベンヌの砂0・6グラムを交換します。りゅうぐうの方は3年前に既にNASAに渡してあります。

小惑星ベンヌ(左)と、りゅうぐうの大きさを比較するため合成した写真=NASA、JAXA、東京大など提供

◆イブナ型

小惑星ベンヌに接近する米探査機オシリス・レックスの想像図=NASA提供

 オシリス・レックスがベンヌの砂を地球に送り届けて9カ月。JAXAに渡す分以外の試料については、米国を中心とした研究チームによる分析が進んでいます。りゅうぐうは、これまでに見つかった約7万個の隕石(いんせき)のうち9個しかない希少な「イブナ型」という炭素質隕石と同じ元素の組成を持つことが分かっています。  イブナ型は小惑星の中でも、太陽系が誕生して最も初期の痕跡を残しているとされ、太陽と同じ組成と考えられています。これまでの分析で、ベンヌもイブナ型と確認されました。  ベンヌは、リン酸マグネシウムやかんらん石などの鉱物が、りゅうぐうよりも多そうだということも見えてきました。リンは、地球生命が共通して持つDNAをつくる元素なのでチームは注目しています。ベンヌとりゅうぐうを比較して、違いがあれば太陽系の進化の多様性が浮かび上がるといいます。  りゅうぐうの砂の初期分析を取りまとめた橘省吾・東京大教授(宇宙化学)は、この研究チームに参加しています。橘さんは「1足す1は明らかに2以上」と比較研究の意義を語ります。有機物の分析を担当する大場康弘・北海道大准教授(宇宙地球化学)も「お互いに補強し合えるので比較研究で得られる科学的知見はかなり大きい」と強調します。  日米とも、小惑星の砂の大半は保管して将来の研究に役立てます。ベンヌは砂の量が桁違いに多いので「未知の有機分子が見つかるかもしれない」と大場さんは話しています。


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