インターネット上には、投資詐欺や「国際ロマンス詐欺」と呼ばれる手口の詐欺被害者などをターゲットに、弁護士が「返金を受けられる」などといって相談を募る多くのサイトや広告があります。

しかし、弁護士側に高額の着手金などを払ったのに、その後も適切に対応してもらえないといった、詐欺の“二次被害”ともいわれる事例が各地で相次いでいます。

東京都消費生活総合センターの窓口には、弁護士のこうした対応をめぐる相談や苦情が先月までの1年間に51件寄せられていて、3年前との比較で3倍に急増していることがわかりました。

高村淳子相談課長は「『すぐ対応しないと逃げられる』などと、契約を急がせるような弁護士がいたら、慎重になってほしい。不審に思った場合は消費者センターの窓口に相談してほしい」と話しています。

こうしたいわゆる“二次被害”についての相談や苦情は、各地の弁護士会にも寄せられていて、大阪では、1800人以上から、9億円を超える着手金を受け取っていたとみられる弁護士が、違法に名義を貸した広告会社に法律事務をさせていたとして、弁護士会から懲戒請求を受けたほか、愛知では、法律事務所が、財産のほとんどを失っている人に、クレジットカードで借金をさせて、着手金を払わせていたケースも確認されています。

各地の弁護士会もホームページなどを通じて注意を呼びかけています

高額の着手金を払わされたという女性「許せない」

法律事務所のネット広告を見て相談し、高額の着手金を払わされたという30代の女性を取材しました。

女性は3年前、婚活のマッチングアプリで知り合った『シンガポール出身』とかたる男性から暗号資産への投資を勧められ、1200万円相当のビットコインをだましとられました。

女性は、ネット広告で『詐欺に強い』と宣伝していた東京の法律事務所に相談し、調査を進めてもらうための着手金として80万円余りを支払いました。

しかし、事務所とのLINEでの打ち合わせに弁護士本人は1度も登場せず、事務員を名乗る人物が「告訴する準備を進めている」などと説明はするものの、状況は全く進展しませんでした。

不審に感じた女性は契約を解除したということです。

女性はさらに『本気で返金請求するなら私にお任せ下さい』などと、弁護士の写真付きで宣伝していた大阪の法律事務所に65万円を支払い、被害回復の手続きを依頼しました。

弁護士本人にも今度は会うことができましたが、送られてきた「報告書」に記載されていた暗号資産の送金履歴などは、無料のサイトで調べられる内容ばかりでした。

この弁護士が、違法な名義貸しをしたとして、大阪の弁護士会から懲戒請求を受けたことを知り、女性は再び契約を解除したということです。

繰り返し事務所に電話をかけて抗議するなどした結果、2人の弁護士はいずれも着手金の返金に応じたということですが、女性は「弁護士に依頼すれば解決してくれるものだと思い込んでいたので、すごくショックですし、人の弱みにつけこむようで、許せない気持ちでいっぱいです」と話していました。

“二次被害”背景に 弁護士業界の状況と誇大広告行う業者の存在

東京の法律事務所に勤務し、弁護士の不正の実態に詳しい男性は、“二次被害”が相次ぐ背景には、競争が激化する弁護士業界の近年の状況と、誇大広告などを手がける業者の存在があると指摘します。

平成の半ば以降、司法制度改革によって弁護士の数が大幅に増えました。

男性は、「仕事を得られなくなった弁護士の名前を使う形で、法律の知識を持つ非弁屋と呼ばれる者たちや、悪質な広告業者などが、ネットの誇大広告を手がけ、さらに法律相談の実務まで担い、詐欺の被害救済などを名目に客を集めている」と話します。

弁護士でない者が、報酬目的で法律事務を行うことは「非弁行為」として弁護士法で禁止されています。

また、弁護士が非弁行為をする側に名義を使わせることも禁止されていますが、経営に行き詰まるなどした一部の弁護士が悪質な業者に協力する構図が生まれていると指摘します。

男性は「業者と食えない弁護士の利害が一致している。悪質業者は、カネに困っている弁護士を探しているが、客の預かり金に手を出すなどして懲戒処分を受けた弁護士の情報もインターネットで得ることができる。弁護士の側も、資格を持っているからといって食っていける世の中では無くなった。先立つものが必要になり、黒いカネでもつかんでしまおうと考える弁護士が出てきている」と話しています。

消費者問題に取り組む弁護士 “安心して相談できる窓口を”

国の専門委員も務めるなど、消費者問題に長年取り組んできた大阪の国府泰道弁護士は、「詐欺の被害金を取り戻すことは、法律家が関わった場合でも非常に難しいことを理解する必要がある」としたうえで、“二次被害”にあう前に安心して相談できる窓口をつくることが重要だと考えています。

国府弁護士は、ほかの弁護士などともに、先月神戸市で、NPOの設立総会を開きました。

法的な手続きを希望する人たちへの信頼できる相談先の紹介のほか、被害者の心のケアなどの活動にも力を入れていくとしています。

国府弁護士は、「問題がある弁護士がはびこると弁護士に対する社会の信用を失う。弁護士と被害者をうまくマッチングして、“二次被害”を生まないようにしていきたい」と話しています。

専門家 “とても深刻な事態 監督体制も必要では”

“二次被害”が相次いでいる状況について、弁護士倫理に詳しい早稲田大学大学院法務研究科の石田京子教授は「ごく一部の弁護士の話ではあるものの、弁護士に対する信頼を失墜させてしまう意味ではとても深刻な事態だ」としたうえで、「弁護士が権力に屈せず自由で独立していなければならないという弁護士自治には、非常に重要な価値があるが、個々の弁護士を監督するという点で言うと、性善説の立場から本当にまずい状況になってようやく動くという印象も受けている。弁護士の倫理研修を強化するとともに、弁護士会がもう少し迅速に監督できる体制も必要ではないか」と指摘しています。

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