「助けて!」。川の方から、子どもの声が聞こえてきた。

 日曜だった2日午後2時50分ごろ、かんぽ生命保険の大西勇太郎さん(36)は、営業先からバイクで会社に帰る途中だった。

 高松市木太町の詰田(つめた)川沿いの市道を北上して左折し、国道11号の新詰田川橋を西へ渡ろうとしていた時のことだ。

 最初は子どもがふざけているのではと気に留めなかった。だが、橋の上から高齢の男性が心配そうに下をのぞいているのが見えた。

 再び「助けて」という声が聞こえ、大西さんは道を引き返した。

 市道から橋の下をのぞくと、小学生くらいの男の子が河口のぬかるみに足を取られ、身動きがとれなくなっていた。近くにいた友人が釣りざおなどで助けようと奮闘していたが、ひざ上まで足が埋まり、子どもだけでの救助は難しそうだった。

 不安そうな顔をした男の子を見て、大西さんは川へ下りることにした。

一瞬躊躇、でも身体が動いていた

 自らもぬかるみにはまる可能性を考え、会社の先輩に電話をした。足を踏み出す時、革靴が汚れるのではと一瞬躊躇(ちゅうちょ)した。だが、気づいたら身体が動いていた。

 ひざ下付近まで足が沈むなか、制服のズボンを汚しながらぬかるみを進み、男の子の脇を両手で抱えて引っ張り上げた。

 その後、大西さんらの声を聞いて現場に駆けつけた会社員の牧原光宏さん(48)とともに、男児を道へ引き上げた。

 高松北署によると、男の子は小学4年生。友人と釣りをしようとしていたとみられる。命に別条はなく、無事に保護者の元へ戻ったという。

 24日、迅速かつ的確な対応が人命救助につながったとして、2人に高松北署などから感謝状が贈呈された。

 大西さんは「子どもが大きい声で助けを呼べたことがすごいこと」と語り、救助できたことに安堵(あんど)していた。

 県警によると、過去10年間で水難事故にあった15歳以下の子どもは31人で、そのうち6人が亡くなっている。

 県警は川やため池など水辺の危険を伝えるパンフレットを作っており、子どもが水辺に近づく時は、大人と一緒に行き、ライフジャケットを着用するよう呼びかけている。(木野村隆宏)

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