新潟水俣病訴訟の判決後、新潟地裁前で「国の責任を認めず」などと書かれた垂れ幕を掲げる弁護士ら(18日午後)=共同

水俣病特別措置法の救済対象から外れた新潟水俣病の未認定患者らが損害賠償を求めた訴訟で、新潟地裁は18日、原因企業に約1億円の賠償を命じた。原告47人のうち26人を患者と認め、不法行為から長期間経過すると損害賠償請求権がなくなる「除斥期間」は適用しなかった。一連の訴訟で新たな患者認定が相次ぐ一方、救済を巡る司法判断は割れている。

特措法における未認定患者らによる集団訴訟では、2023年9月の大阪地裁、24年3月の熊本地裁に続き、3件目の判決。新潟水俣病では初めての判断だった。東京地裁でも係争中で、各地の訴訟の原告は計1700人を超える。

島村典男裁判長は判決で、原告の症状を踏まえ「メチル水銀が原因で罹患(りかん)している可能性が高い」として26人を新潟水俣病の患者と認めた。原因企業の昭和電工(現レゾナック・ホールディングス)に対し1人当たり400万円の賠償を命じた。

一連の訴訟では除斥期間が主な争点となっている。不法行為から20年たつと損害賠償請求権がなくなるとする民法の規定で、メチル水銀による健康被害が明らかな場合でも、起算点から20年経過していれば請求できない「時間の壁」となっていた。

この日の判決は、新潟水俣病の発症時を起算点とし、「提訴の時点で経過していた」とした。一方、原告側が差別や偏見を恐れて提訴が困難だった事情を踏まえ「正義、公平の理念を踏まえ、適用を制限する」とし、賠償請求権はあると判断した。

除斥期間の起算点について大阪地裁判決は「水俣病と診断された時点」とし、診断から20年を経過していなかった原告全員への賠償を命じた。熊本地裁は今回の判決と同様に「発症した時点」とし、除斥期間を適用し賠償請求権が消滅したと結論づけた。

除斥期間の適用を巡る判断は3地裁でそれぞれ異なる。公害問題に詳しい大阪公立大学の除本理史教授は「患者の事情を考慮し除斥期間を適用しなかった今回の判決は積極的に評価できる」と指摘する。

国に責任が認められるかどうかも大きな争点だ。今回の新潟地裁判決はメチル水銀を含む排水や周辺住民の健康被害について「(国が)具体的に認識・予見できたとはいえず、国家賠償法の違法があるとはいえない」と国の責任を否定した。

これまでの判決のうち、大阪地裁は国が水質に絡む法律に基づく規制権限を行使しなかったのは違法として国にも賠償責任を認めた。熊本地裁は国の責任を認める一方、除斥期間が経過したとして原告の請求を退けている。

水俣病は公式確認から67年が経過する一方、救済範囲がなお揺れている。国が救済の原則とするのが77年に定めた基準で、水俣病と認定されれば慰謝料や療養費が支払われる。環境省によると今年3月末時点で熊本、鹿児島両県で2284人、新潟県では716人が補償を受けた。

しかし補償から漏れた人の訴訟が相次いだ。国は訴訟取り下げを条件に一時金を支払う「政治解決」を図ったが救済拡大を求める声は多く、最高裁は2004年に国の基準より幅広く救済すべきだと判示。解決に向け09年に施行したのが特措法だった。

特措法は救済対象の年代や地域を限定し、約2年で申請を締め切った。補償を受けられなかった人は約9600人に及び全国各地の集団訴訟につながった。

除本教授は特措法の救済対象外とされた原告らの患者認定を踏まえ「救済の範囲を狭めた国の姿勢により問題が長期化している。患者らの高齢化は進んでおり、救済策の見直しを急ぐべきだ」と話した。

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