記録的な円安が続き、留学の費用が段違いに上がっている。経済的な理由で海外での学びをあきらめる学生が増えれば、国際競争力が低下しかねない。(森岡みづほ、田中恭太、山本知佳)

英国の学食ランチは1500円

 女性の権利を守る仕事に就きたいと、英サセックス大の修士課程で学ぶ女性(29)は、円安に苦しんでいる。

 留学準備をしていた2022年は、1ポンドが150円台のこともあった。学費は約280万円と見積もっていたが、円安が進み、学費の分割払いを終える今年4月には1ポンドが190円以上に。結局、当初の計算より約50万円多くなった。1ポンドが200円を超えることもあり、「もう、怖い」と話す。

 学食のランチが7.5ポンド(現在のレートで約1500円)で、昼食は家から持参。家賃を抑えるため大学から電車で1時間ほどの場所に暮らすが、運賃は片道12ポンド(同2400円)。ラッシュアワーを避けると半額になるため、その時間帯に大学に通うようにしている。

 留学を終えたら、日本に帰らず海外で働くことを考えている。ソフトウェア開発に携わる夫の給与は、欧米と比較して日本は低い。自分の専門分野の開発学の仕事も、日本では少ない。何より日本の経済力が下がるのではと感じ、将来に不安がある。

 「日本は島国だからこそ、海外に出ないと国際的な感覚からどんどん離れてしまう。このまま円安が続いたら、恵まれた人しか海外に出なくなり、国としても発展できなくなるんじゃないか」

「一般人には無理」いったんあきらめる人も

 放送大3年の女性(22)=広島県=は、米国の映画や文化が好きで、将来は米国で働くのが夢。3年次から米国の大学へ進もうと考え、アルバイトに励んできた。だが円安が進み、親からの支援を踏まえても留学はかなわなくなったという。

 「もともと留学にはお金がかかるとわかっていたが、手が届かないものになってしまった。一般人には無理です」。貯金を続けながら、海外の大学院をめざす。「もうちょっと円高になってくれないかな」

「目的の設定が重要」

 専門雑誌も出す留学エージェント「留学ジャーナル」(本社・東京都)によると、米国へ留学する場合、コミュニティーカレッジに1年間通う費用が昨年比で64万円ほど増えたケースがある。

 豪州への留学でアルバイトやワーキングホリデー(WH)を組み込んだり、比較的割安なカナダでの有給のインターンシップを検討したりするケースが増えた。

 加藤ゆかり編集長は「なんとなく留学するのではなく、『なぜ自分は留学するのか』という目的設定が重要。お金や時間の使い方を工夫すれば目的の達成はできる」と話す。英語の習得が目的で海外の語学学校に通うだけなら、多くの場合は長くて半年で十分とみる。さらに期間を延ばしたいなら、残りはWHにして費用を抑える――といった計画ができるという。

 海外大に進学する場合は、米国の私大などが独自に設ける奨学金制度の活用も手だという。

「政府は奨学金や情報の提供を」

 留学生教育学会会長の近藤佐知彦・大阪大教授は、大学間の交換留学は追加の学費がかからず期間が短いため為替の影響は小さいとみる一方、「海外大での学位取得をめざす場合は学費が高い上に期間も長く、影響が大きい」と強く懸念する。

 学位取得型の留学生は交換留学よりも長期間にわたり、留学先の地域についての知識を深め、現地での人的なネットワークも築ける。「高額な費用などのリスクを負って学業に取り組むが、進学を避ける人が増えれば国際人材が減り、日本の国際競争力が低下しかねない」

 近藤教授は、政府が奨学金などの支援態勢を拡充したり、欧米だけでなく、近隣のアジア各国も含めた多様な進学先を検討できるように情報を提供したりすべきだと指摘。そのうえで、「円安で業績が好調な民間企業にも、奨学金などの支援をお願いしたい」と話す。

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