罪を犯した障害者らの更生に、国が力を入れている。昨年11月には、千葉県内の少年刑務所が知的障害や発達障害のある若い受刑者を専門に受け入れ始めた。施設内の福祉の専門職員や外部の機関が連携して、社会復帰につなげる狙いがある。今年5月には、札幌刑務所でも精神障害のある受刑者の社会復帰を支えるモデル事業も始まった。なぜ今? 求められている支援とは? 立命館大の森久智江教授に聞いた。
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法務省の統計では、知的障害も精神障害に含んで集計しています。それによると、その年に刑務所に入所した人に占める精神障害のある人の割合は、2012年の10.2%から、22年には16.8%まで上昇しました。
ただ、必ずしも、罪を犯す障害者の数が増えたというわけではありません。入所時の知能検査や、医師による診察を徹底するようになり、障害のある人を把握できるようになったことも大きく影響しています。
窃盗の割合・再犯期間の短さに特徴
罪を犯した障害者には特徴があります。一つは、窃盗の割合が突出して高いことです。22年に入所した障害者2435人のうち、約4割にあたる954人が窃盗でした。背景には、経済的な困難さを抱える人の多さがあります。
再犯までの期間が短いのも特徴だと言われます。15年に再犯で刑務所に入った人を対象にした法務省の調査では、精神障害のない人では、出所して半年未満で罪を犯した人が20.2%だったのに対し、知的障害のある人は33%、知的以外の精神障害者では22.7%でした。
再犯期間が短い原因の一つは、生活上の困りごとがあるときに、行政や福祉の窓口に相談ができなかったり、そもそも相談するという意識がなかったりするという点が挙げられます。
そうした人の中には、福祉や自治体と関わったものの、うまくいかずに良いイメージを持っていない人もいるようです。自力でなんとか生活を成り立たせようとしても、サポートしてくれる人がいない状態では、結局は犯罪的な手段をとらざるを得なかったり、巻き込まれたりすることになりかねません。
法務省の統計によると、20年に刑務所を出所した人で、帰る先が決まっていなかった人の27.5%が、2年以内に再び刑務所に戻っています。一方、更生保護施設など、帰る先があった人では15.4%で、約1.8倍もの開きがありました。
経済的な困窮を背景にした再犯を防ぐには、まずは住む場所を確保することが重要です。そのため、身寄りのない刑務所出所者が住む場所を探すのを助ける「地域生活定着支援センター(定着)」が12年までに全国で設置されました。
以前は、罪を犯した障害者らが入居できる物件は今より限られていました。定着が地域に根ざして施設や住宅の所有者らの理解を得てきたことで、受け皿は確実に増えてきました。一方、地域によって、定着の活動の質に差があることも確かで、研修などを通じてそれを埋めていくことも今後の課題です。
生き方をどうサポートするか
出所者支援の内容は、徐々に変化してきました。当初は、刑務所から再び社会に出る際に住宅や福祉サービスにつなげる「出口支援」が中心でした。
近年では、刑務所に入る前の段階から福祉につなげる「入り口支援」も行われるようになりました。不起訴処分や執行猶予判決を受ける容疑者や被告人について、定着が検察などと連携して、福祉サービスにつなげる仕組みです。刑務所に入れて罰するより、地域内で生活することが更生につながるのであれば、新たな被害を生まないためにもそれを支援しよう、という方向に移行してきていると言えます。
障害者福祉そのものの考え方自体も、変化してきました。以前は、強い立場にある者が、弱い立場にある障害者らに対し、本人の意思とは関係なく介入する「パターナリズム」の考え方が強かった。今は、あくまで本人の意思を尊重し、その生き方をどうサポートするか、という考え方に変わってきています。
再犯を防ぐためにその人を縛ってしまうことは、本人の生活の質を上げるような支援とは言えません。自立とは、依存先を増やすことです。罪を犯した障害者も、福祉サービスや支援者など、色々なところに依存できる状態に徐々に近づけていくことが重要です。(聞き手・森下裕介)
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