【新潟】自分をいまよりちょっとだけ好きになってみませんか――。同世代の若者にそんなメッセージを届けたいと、「自分史」作りを手伝っている学生がいる。きっかけは、コロナ禍で広がった社会的孤立だった、という。

 3月中旬、長岡市の県立長岡向陵高校。4、5人ごとの班に分かれ、1年生が「一番楽しかったこと」などについて自分を振り返る作業をしていた。

 「小学生のころの思い出でもいいよ」。長岡造形大大学院生の末永(まつえ)かりんさん(25)が、机の間を回ってアドバイスした。進学や就職に備えて自分のことを説明する経験を生徒たちに積んでもらおうと、自分史作りのワークショップを手がける末永さんに高校が依頼。「探究学習」の授業の一環で行った。コーディネーター役の生徒8人とともに進めた授業で、最後は振り返って分かった自分のことを、ほかの生徒の前で発表してもらった。「振り返るのは、自分を理解するため。人に話して感想を聞けば、気づかなかった自分の良さを知ることもできる」と末永さん。きっかけは4年ほど前の出来事だった。

 末永さんは当時、東京の大学生。コロナ禍のまっただ中で授業はリモート。他者との付き合いも減らさざるを得なかった。学生寮で暮らしていたが、寮生の中には感染を心配して帰省もできず、社会から孤立し、精神的に追い詰められて自殺を図ったり、うつ症状に陥ったりした人もいた、という。「衝撃だった。自分に何ができたか、考えた」

 ちょうどそのころ、対話を通して自分と他者を理解するための方法を学ぶイベントに参加。改めて振り返ってみた自分の「歴史」をほかの参加者に紹介してみた。

 子どもの自己決定を尊重する和歌山県内の全寮制の私立学校に入り、同校の高校卒業後の2年間、寮の管理人として働いた。子どもたちの悩みに接して、社会的弱者の支えになりたいと大学に進学。社会福祉を学ぶ道を選んだ――。

 そんな振り返りを聞いたほかの参加者は面白がってくれた。将来の具体的な目標までは描けていないことに漠然とした不安を抱いていたが、「わたし、結構、頑張ってきたんだ」と、新たな視点で自分を見直すこともできたという。

 孤立に苦しんだ友人のことを振り返り、「自分のことをもうちょっとだけ好きになることができれば、つらい時にも自分の支えになるものが増えるんじゃないか。同世代にとっての『歩くパワースポット』になりたい」と思ったという。

 学生として学びながら、地域おこし協力隊としても活動できる「イノベーター育成プログラム」がある長岡造形大大学院に昨年入り、自分史作りのワークショップを始めた。

 興味をもってくれた人には、まず、「逃げてしまった出来事」「幸せにしてくれたこと」「自分らしくいられた場所」など、具体的なエピソードを引き出しやすい約30項目の質問に答えてもらう。対話をしながら、なぜそう思ったのかなどを聞き、「気づき」につなげてもらう。内容は文書にまとめてもらい、それを末永さんが数日かけて「MY STORY わたしが主人公の物語」と題した縦横15センチの四角い冊子に編集する。その人らしい表情を末永さんが撮影した写真も掲載する。後日、同じように自分史を作ってもらった4、5人で集まり、互いの冊子を読み合って感想を述べ合うという。

 大学生や新社会人など20代を中心に、1年間で18人が自分史を作った。「他者が介在することで自分のことがよりよく分かった」「振り返って家族に支えられていることを確認できた」「嫌なことに区切りがつけられた」との感想が寄せられるなど好評だという。

 「心がまいってしまう手前で、支えにできるものを見つけられるよう、自分史を作る手伝いがしたい」と末永さん。自分史についての問い合わせは末永さんにメール(karin.matsue@gmail.com)で。(白石和之)

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