愛媛県八幡浜市でかんきつ類の生産を手がけるミヤモトオレンジガーデンが、農家の負担軽減を後押しする「ドローンスクール」を開校した。コメなど平地の作物では、農薬散布をはじめ活用の幅が広がる一方、傾斜地も多いかんきつ栽培では操縦の難しさなどから導入が停滞。同社の園地を教習場にノウハウを伝授し、生産性向上に役立ててもらう考えだ。(共同通信=松田大樹)
「葉の裏までしっかりかかっているでしょう」。2月、八幡浜市の園地でドローンの飛行を見守ったミヤモトオレンジガーデンの宮本泰邦社長(48)が声を弾ませた。この日は導入したばかりの新型機、中国メーカーDJIの「T―25」で、農薬に見立てた水を散布する訓練を実施。機体の性能が高まり風圧が増したことで、害虫防除に必要な葉の裏まで付くようになったと説明した。
宮本さんは民間企業勤務を経て、2014年に実家の農園を継ぐ形でミヤモトオレンジガーデンを設立した。約20品種を生産し、加工品製造や輸出にも注力。先端技術で農作業の効率化を図る「スマート農業」にも積極的で、ドローンは2021年から活用に乗り出した。
「夏場にかっぱを着て農薬を散布するのは相当な重労働だ」と宮本さん。同社の園地の一部で若手社員と試行錯誤を重ね、手でまくより作業効率が高まったと実感した。
これまでは傾斜地での散布に機体の性能が追い付いていなかったり、空中散布に対応する農薬が少なかったりしたことが普及の壁だった。
こうした状況が徐々に改善される中「多くの農家にノウハウを共有できないか」と考えた。宮本さんに共感し、今回の取り組みに参画したのが愛媛県内で活動する若手2人だ。
松山市のベンチャー企業KIRIの高橋大希さん(28)は農業に特化した単発アルバイトのマッチングサービス「AIagri.(あいあぐり)」を手がける。宮本さんは2020年のサービス開始当初から利用。生産現場の人手不足や高齢化といった課題解決に向けて、ドローンの有効性についても認識を共有してきた。
虻川諒太さん(36)は東北地方の企業でドローンの開発製造や販売、農薬散布や空撮といった事業に8年ほど従事した。2022年に松山市に移住し、個人事業主としてドローンの操縦指導や産業業務全般を行う。宮本さんとは昨年秋、知人の紹介で知り合った。
産業用ドローンの黎明期から携わり、業界に精通する虻川さんが加わったことで、宮本さんは「自分たちでスクールを開くのが現実的になった」と話す。3人は「農家目線で役に立つ知識や技術を伝えたい」と講習内容を練り、今年2月に開校した。
農業用ドローンの操縦に必要な資格を取るコースのほか、独自のノウハウを盛り込んだのが、かんきつ栽培に特化したコースだ。実用的な技術を習得してもらおうと、参加者は傾斜地にある農園で操縦訓練を行う。空中散布で使用できる農薬の知識も学べる。講習は1日で料金は11万円。
かんきつ園地で請負散布ができる技量を目指すコースも用意した。建設業など他業種のドローン操縦者も対象としており、担い手が減る農業に人材を呼び込む狙いだ。2日間の講習で料金は33万円。
「傾斜地での栽培は負担が大きく、耕作放棄地が拡大している」と宮本さん。ドローンの活用で効率化を図るとともに、若手人材の確保にもつなげて「持続的なかんきつ栽培を実現したい」と意気込む。
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