電気は太陽光発電でまかない、生活水は浄化して繰り返し使うトレーラーハウスの開発を、「無印良品の家」で知られるMUJI HOUSE(文京区)が進めている。車両なので移動可能。生活インフラのない地で過ごせるため、相次ぐ自然災害を受けて防災面からも注目されている。

照明やエアコンなどの電気は太陽光発電でまかなう=いずれも千葉県南房総市で

◆「インフラゼロで暮らせる」トレーラーハウス

 トレーラーハウスの試作機は、海と山に囲まれた千葉県南房総市の施設「シラハマ校舎」にある。電力会社の送電網(グリッド)や上下水道につなげない「オフグリッド」で、既存のインフラに頼らないことから、同社は「インフラゼロで暮らせる家」とうたう。約12平方メートルの2棟を組み合わせ、台所や居間、シャワー、トイレを備える。  屋根や外壁と一体型の太陽光パネルの発電能力は計4キロワットで、蓄電池は2人暮らしの3日分の電気をためられる。高性能の断熱材を施し、冷暖房に使う電気量を抑えている。今年1月の電気使用量(1日平均)は4.5キロワット時で、発電量(同)11.6キロワット時が上回った。

トレーラーハウスの屋根や壁面と一体型の太陽光パネルは黒色で落ち着いた印象

 水回りは水浄化・循環システムを使い、台所とシャワーの排水を再利用している。飲食用の水は別に購入。トイレは水を使わず微生物で排せつ物を分解するバイオトイレで、1日20回ほど使え、トイレットペーパーや生ごみも分解できる。同社取締役の川内浩司(こうじ)さん(64)は「二酸化炭素(CO2)を出さず、光熱費もかからない」とメリットを説明する。

◆「トイレのにおい気にならず」 防災面でも関心高まる

排せつ物を微生物が処理するバイオトイレ

 来年の実用化を目指し、住み心地や課題を探る宿泊体験を実施中。5月は625組1100人の応募から選ばれた4組8人が泊まり、「部屋が密閉されていて暖かかった」「トイレのにおいや音は全く気にならなかった」「富士山の見える場所に持っていきたい」などの感想が寄せられた。複数回宿泊した川内さんは、「雨が続くと心細くなって1時間おきに天気予報を見たり、節電のために早く就寝して夜明けとともに起きたり。工夫は要るけれど楽しかった」と実感を語る。

排水を浄化して繰り返し使うシャワー室

 同社では貸別荘のような利用を想定しているが、1月の能登半島地震を受け、自治体から防災関連の問い合わせが増えたという。「普段は週末ハウスとして使い、災害時に被災者の役に立てることも視野に入れている」と川内さん。オフグリッドの運用で協力するべンチャー企業INNFRA(甲府市)代表取締役の川島壮史(たけし)さん(43)も「災害によるインフラ途絶などの課題解決に取り組む」と話した。    ◇   ◇      宿泊体験は9月まで一部の週末に実施し、7月12日~8月5日分は6月23日までに特設サイトから申し込む。9月13~30日分は8月19日に募集を開始する。    ◇   ◇    

◆「太陽光や断熱発展のフロントランナーに」

蓄電池や水循環の設備。サイズの縮小を検討している

 住宅の省エネや太陽光発電に詳しい東京大の前真之(まえまさゆき)准教授(建築環境工学)の話  オフグリッドは太陽光発電や蓄電池、断熱を発展させるフロントランナーとしての役割が期待される。技術的に大きな障害はなく、大型の太陽光発電設備や蓄電池を導入すれば実現できるが、導入コストが割高になる。一般家庭では採算性を踏まえ、電力会社の電力系統から切り離さずに太陽光発電を優先して導入するのが良いだろう。  また、エネルギーの自給には、冬に暖房がほぼ必要ないぐらいまでに建物の断熱性能を高めることも重要だ。災害対応では必要な量を確保できる経済性が求められる。 文と写真・押川恵理子 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。 

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