自民党派閥の政治資金規正法違反事件を巡り、安倍派(清和政策研究会)の会計責任者が18日、東京地裁の公判で裏金づくりの実態を証言した。いったん中止した政治資金パーティー収入のノルマ超過分の所属議員側への還流を再開すると決めたのは2022年8月の幹部会合だったと説明するなど派閥会長以外にも複数の幹部議員が関与していたと明らかにした。
国会の政治倫理審査会で多くの幹部議員は還流について「歴代会長と事務局長との間で長年慣行的に扱ってきた。会長以外の幹部が関与することはなかった」などと関与を否定し続けており、発言内容に食い違いが生じた。
この日、被告人質問で証言台に立ったのは同法違反(虚偽記入)罪に問われた安倍派の会計責任者で事務局長の松本淳一郎被告(76)。同派の「金庫番」として、裏金づくりの詳細を知りうる立場にある。約1時間にわたる弁護側からの尋問では裏金づくりの実態などを具体的に証言した。
松本被告はまずノルマ超過分を還流するプロセスの詳細を明らかにした。同被告は各議員に割り当てるノルマの原案は自身で作り、派閥会長に諮った上で各議員に伝達していたと説明。パーティー終了後、実際の入金状況を踏まえて還流に関する資料を作って会長に説明し、「ゴーサインが出てから還付作業を始めていた」と述べた。
被告だけの判断で還流することができたか尋ねられると「それは不可能だ。独断で還付することは一切ない」として派閥会長の了承が不可欠だったと強調した。
焦点の一つである、いったん中断した還流を再開した経緯についても証言した。22年3月ごろに派閥会長(当時)の安倍晋三元首相から「還付には問題がある」と指摘を受けたと説明。同年4月に塩谷立元文部科学相=自民党を離党=、下村博文元文科相、西村康稔前経済産業相、世耕弘成前参院幹事長=同=の派閥幹部4人を交えて話し合いの場を持ち、中止を決めたという。
ところが安倍元首相が死去した後の同7月末、松本被告は幹部議員から「ある議員が還付してほしいと言っている」と還流再開を求める申し出を受けたという。同8月に幹部4人が再び協議し、「いろんな議論があったが『還付やむなし』という結論になった」とした。
還流の中止や再開の方針はいずれも派閥幹部4人が所属議員側に伝えていたという。還流再開を求めた幹部や議員の名前は法廷では明らかにされなかった。
3月の国会の政倫審では、22年8月まで事務総長を務めていた西村氏が「(協議した結果)いろんな意見があったが結論は出なかった」と説明。同月に西村氏から事務総長を引き継いだ高木毅前国会対策委員長も再開の経緯は把握していないとしていた。
ノルマ超過分の一部について議員側が派閥に納めずに手元に残していたことについては20年にはじめて気づいたと説明した。
還流などの運用については「(前任者から)大まかな説明があった」と述べたものの、安倍派で還流が始まった経緯は明らかにならなかった。
松本被告は19年2月に安倍派の会計責任者に就任。18〜22年の派閥の収支報告書について、約6億7千万円分の収支と支出をそれぞれ記載しなかったとして起訴された。同被告は大筋で起訴内容を認めているが、所属議員が手元でプールしていた分の一部については「認識がなかった」として不記載額を争っている。
次回公判は7月9日で、検察側が被告人質問を行う予定だ。
一連の事件では派閥側は会計責任者のみが起訴され、派閥の実務を取り仕切っていた歴代事務総長ら幹部議員は不起訴になっている。今月19日には、二階派(志帥会)で会計責任者を務めた永井等被告(70)の初公判が開かれる。
幹部議員は証言内容を否定
安倍派(清和政策研究会)の会計責任者、松本淳一郎被告が18日の東京地裁の公判で2022年8月の幹部会合で還流再開を決定したと証言したことを受け、会合に参加していたと指摘された幹部議員がコメントを発表した。
西村康稔前経済産業相は幹部会合では「『ノルマ超過分を還付する』のではなく、各議員が開催する政治資金パーティー券を清和会が購入するという代替案が出たことは記憶している」と説明した。
22年8月10日に経産相に就任し、事務総長を離れた後に「一部の議員に現金での還付が継続されたと承知している」と説明。「その後の経緯は全く承知していない。私が還付を指示したり、了承したりしたことはない」として松本被告の証言を否定した。
下村博文元文部科学相も「衆院政倫審などで説明させていただいたとおりだ」とのコメントを発表した。下村氏は24年3月の政倫審で、還流再開について「誰がどう決めたのか全く承知していない」と自身の関与を否定。幹部会合での協議内容は「安倍晋三元首相が亡くなった後の派閥の会長と運営、安倍氏の葬儀への対応が中心だった」としていた。
塩谷立元文科相=自民党を離党=は国会内で記者団に対し、幹部会合で還流が決まったとの証言について「そうではない」と話す一方、「そのような雰囲気の話し合いがあった」とも述べた。
安倍派幹部から還流の再開を求める声があったとの証言については「そういう要望があったというのは聞いたことがある」とした。
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