宇奈月温泉(富山県黒部市)の温泉水でひと泳ぎさせたウナギが「湯遊(ゆうゆう)うなぎ」のブランド名で売り出された。市内の水産会社がかば焼きを販売し、カフェではうな重として提供している。「入浴」することで、おいしくなっているという。

 湯遊うなぎは、同市宇奈月町に新たな名物を作りだそうというプロジェクトで誕生した。地元企業5社でつくる「黒部Uプロジェクト協議会」(代表・吉田忠裕YKK相談役)が取り組んできた。

 プロジェクトは3年前にスタート。ウナギを選んだ理由の一つは、道路の案内標識で宇奈月を示す「う」の文字が、細長い姿に似ていることだった。冬のカニのように観光客を引きつける、夏の目玉になると見込んだ。

 とはいえ、今回売り出したウナギは温泉育ちというわけではなく、出荷前に「入浴」させている。当初は宇奈月の温泉水を使って養殖し、付加価値の高いウナギを生産しようと考えた。だが絶滅危惧種のニホンウナギは資源管理が厳しく、許可制の養殖への参入は難しかった。

 そこで、他県産の養殖ものを仕入れ、出荷に向けて泥やぬめりを落とす期間だけ、温泉水に入れる方法を採った。県水産研究所の協力を得て試験をすると、温泉の効果がみてとれた。

 同協議会によると、27度前後に調節した温泉水と地下水で1週間、えさを与えずに飼って食味や成分を比較。その結果、温泉水で肉質が軟らかくなり、ユズを水に浮かべると良い香りが移ることがわかった。協議会の一員、丸中水産(同市生地芦崎)の松野均社長は「温泉につかっただけで変わると思わなかったが、格段においしい。少し脂が落ち、さっぱり感がある」と太鼓判を押す。

 ウナギは宇奈月温泉に設けた小屋で「ユズ湯」に入浴させた後、魚津市内で加工。丸中水産が業務用に販売し、一般向けにも1パック税込み3980円で小売りする。同社のカフェ「北洋の館」では、ランチタイムにうな重(税込み2600円)で提供する。協議会事務局長の川端康夫・黒部商工会議所会頭は「今後は宇奈月温泉の旅館でも出してもらえたら」と話す。

 プロジェクトは、希少な天然のウナギの市内での漁獲も目ざしている。今年も12日、黒部川内水面漁協や市と共同で、ウナギの幼魚計1700匹を五つの川などに放った。

 放流は4年目で、追跡調査では昨年、体長55センチ、重さ280グラムほどに育ったウナギも見つかっている。川端さんは「たくさん定着すれば黒部のウナギとして売り出せる」と期待する。(佐藤美千代)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。