公務災害の認定を求めているのは、3年前の2021年までの5年間、小田原市立病院で臨床検査技師として働いていた30代の女性です。
女性や代理人によりますと、当時、臓器の標本を作ったり、顕微鏡で観察したりといった業務にあたり、ホルムアルデヒドやキシレンといった有害な化学物質を扱っていたということです。
たびたび頭痛やけん怠感を感じるようになり、仕事を続けるにつれて症状が悪化したため3年前に退職し、その後、化学物質過敏症と診断されました。
退職したあとに情報公開請求などで調べたところ、有害な化学物質を扱う施設で半年に1回義務づけられている調査で、複数回にわたり、基準を超える濃度のホルムアルデヒドが検出されていたことがわかりました。
また、一部の部屋では調査自体が行われていなかったこともわかったということです。
女性は排気といった対策が不十分だったことなどが発症につながったとして、公務災害を申請しました。
小田原市立病院は「指摘された事項には、そのつど適切な対策を講じてきた。1年に数件しかホルムアルデヒドなどを扱わない部屋については、業務委託先の指示に従い測定を行っていなかった。公務災害の調査には協力を惜しまないし、化学物質の濃度を低減させる努力を続けていく」とコメントしています。
公務災害申請している女性「働く環境をちゃんと整えて」
公務災害を申請している臨床検査技師の女性は「化学物質で体調が悪くなってしまう人がいることを少しでも理解してほしい。働く環境をちゃんと整えて、化学物質の取り扱いをしっかりしてほしい」と訴えています。
女性は2016年、小田原市立病院に採用され、2020年病理検査室に配属されました。
臓器を切り出して標本を作り、顕微鏡で観察する部署で、ホルムアルデヒドやキシレンといった有害な化学物質を扱っていました。
刺激臭はきつく目にしみるほどで頭痛やけん怠感を頻繁に感じるようになり、帰宅すると全く動けないほどになったということです。
翌年、病院を退職し、数か月間はトイレや食事以外はベッドから起き上がれない状態だったといいます。
原因がわからない中で症状が続いたことを不安に思った女性はインターネットで化学物質過敏症のことを知り、クリニックを受診して化学物質過敏症と診断されました。
現在も柔軟剤などに含まれるわずかな量の化学物質を感じると頭痛といった症状が出ます。
人が多いところに出かけたり、電車に乗ったりすることが難しいほか、香料を使ったものを食べることができないなど、生活に大きな制約がかかっているということです。
女性は「夢だった臨床検査技師の仕事を続けられなくなったこと、それまで好きだったことができなくなったことがとても残念だ。今の世の中だと化学物質を身の回りから遠ざけることは難しく、苦しい生活はずっと続いていている。身近にある化学物質で体調が悪くなる人がいることを少しでも理解してほしい」と話していました。
また、病院で働いている間、ホルムアルデヒドの濃度が基準を超えていたことを知らされていなかったということで「雇用主は労働者の体調管理のために、化学物質の取り扱いなどをしっかりしてほしいし、補償もしてほしい。困ったときの相談窓口もきちんと作ってほしい」と訴えていました。
専門家「社会全体が当事者意識を持つ必要」
化学物質過敏症は、微量な化学物質に反応して頭痛や吐き気といったさまざまな症状が出る病気です。
柔軟剤や整髪料などに含まれるわずかな量の化学物質にも反応し、中には自宅から出られなくなったり、食べられないものができたり、家具のほとんどを捨てなければならなかったりと、生活が大きく制限されるケースもあるとされています。
どのような仕組みで発症するかは分かっておらず、治療法も確立されていません。
日本では2009年に保険診療の対象に加えられました。
化学物質のリスク管理に詳しい都留文科大学の小島恵 准教授は、化学物質過敏症については、ここ30年ほどで少しずつ理解が進み、司法の判断も変わってきているといいます。
1990年代は病気の存在自体が裁判で争われることもありましたが、保険診療の対象になってからはほとんどなくなり、2010年以降は職場で化学物質に接したことと、発症との関係性を認める判決が出されました。
小島准教授は、今回のケースについて「法令を守っていても、労働者が化学物質過敏症を発症することはあるが、小田原市立病院は果たすべき義務を果たしていないおそれがあり、非難されてもしかたない」と指摘しました。
また化学物質がなければ今の生活はできないとしたうえで、「科学の進歩とともに新しい被害や疾病が生まれてくるのは歴史を見ても明らかだ。自分も被害者になりうるという姿勢で社会全体が当事者意識を持つ必要がある」と述べました。
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