東北電力女川原発が立地する宮城県女川町は、人口減少が進む上に経済基盤の水産業を取り巻く環境も厳しく、原発依存を脱却できない。そのためなのか、東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受け、原発も被災したにもかかわらず、強い反対もなく町や県は再稼働に同意した。ただ、原発は牡鹿半島の中央付近に位置し、深刻な事故が起きれば住民の孤立など避難は困難を極める。(渡辺聖子、荒井六貴)

◆再稼働で一部は潤うが…

宮城県女川町役場

 「原発作業員が長期で泊まってくれる。原発があるから町が潤う」。原発近くで民宿を営む女性は、9月に迫る再稼働に期待した。原発の事故対策工事中、満室が続いたという。  町の一般会計の歳入は2022年度が約140億円で、うち7億円近い原発関連交付金に加え、固定資産税なども入る。作業員が宿泊施設や飲食店を利用すれば、大きな利益になる。

◆震災後は漁業者も水揚げも半減

 一方で、昔から町を支えてきた漁業は、先行きが厳しい。  世界三大漁場とも呼ばれる三陸や金華山沖に近く、イワシやサバ、サンマが水揚げされ、カキやホタテを養殖。それでも、2011年の東日本大震災前と比べると、漁業者数は半分以上減って約200人、昨年の水揚げ量も半減の約3万トンだった。養殖のホタテは、東京電力福島第1原発の処理水放出の風評被害で半値になり、東京電力から賠償を受けている。

JR女川駅から望む女川港=宮城県女川町で

 県漁業協同組合女川町支所の岡田光弘支所長は「後継者がなかなかいない」と窮状を語る。

◆「消滅可能性自治体」のリスト入り

 町の人口も減り続けている。2000年に1万2000人近くだったが、今年4月時点でほぼ半減の約5850人。民間組織が4月に公表した消滅可能性自治体にも入っていた。  半島にある女川原発は避難時の制約が大きく、事故が起きた際のリスクは計り知れない。

◆半島先端の住民はなすすべなし

 30キロ圏の3市4町には約18万8500人が暮らす。そのうち半島の先端から陸路で避難する人は、原発方面に向かう計画になっている。地震や津波の複合災害で道路が寸断すれば、孤立する恐れがある。  原発から半島先端側に約10キロの石巻市小渕浜。漁港を囲むように民家が立ち並ぶ。養殖業の60代女性は「原発に近づいて逃げられるわけない。集落にはみんなが入れるシェルターもない」と、現実的な避難対策がないまま再稼働へと進む現状に憤る。  女川町内では東日本大震災の津波で道路が寸断し、孤立地域が発生。復旧に数日かかり、原発に避難した住民もいた。19年の台風19号の時は道路が浸水し、土砂崩れも起きた。町の担当者は「震災後に道路の拡幅やかさ上げをして強化はされているが、絶対はない」と話す。

◆屋内退避の結論を待たずに再稼働へ

 町と石巻市は離島を抱え、避難時は船やヘリコプターを使うことになる。それも、津波や悪天候の場合は使えない。足止めされた住民たちは、自宅などで被ばくを避ける屋内退避をせざるを得なくなる。  その屋内退避を巡っては、原子力規制委員会が4月に、退避期間などの議論を始めたばかりだ。きっかけは1月、女川原発の立地自治体との意見交換だった。年度内は議論が続く見通しで、結論を待たずに再稼働となる。住民の安全確保が後回しになる形だ。 

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