Yahoo!ニュースを見ていると、兵庫県のニュースページで、丹波新聞の記事をよく見かけます。新聞の読者が減る傾向にある中で、丹波・丹波篠山両市を取材エリアとする地域紙の丹波新聞が「元気」です。今年はちょうど創刊100周年。「元気」の源を常務で編集部長の芦田安生(やすお)さん(53)に聞きました。(青木康行)

30年前から「部数を維持」

――芦田編集部長が入社した30年前が1万3千部で、現在も1万2千部と発行部数を維持しています。全国紙や県紙が部数を大きく減らしている中、どうやって購読者を引きつけているのでしょうか

 丹波新聞は週2回の発行なので、日刊紙には速報性ではかなわない。ならば地域に入り込んで、独自の話題を掘り下げようというのが、先輩記者から受け継いだ伝統です。

――子育てのご利益があるとされ、自宅に持ち帰って願い通りに子を授かれば元の場所に戻すという暗黙のルールがある丹波篠山市の「子育て地蔵」の話題が、丹波篠山版の1面トップになりました(5月12日付)。2021年に数十年ぶりに姿を消し、子宝を望む人のもとへ「出張」に出ていたが、今月7日、地元住民が元の祠(ほこら)に戻っていることに気付いた……。興味深く読みました

 地域に入り込まなければ見つからないニュースはたくさんあります。コロナが明けつつあるタイミングで連載「まちの世間遺産」を始めたところ、読者の人気を集めています。「ミニ自治会のような最寄制度」「なわとび記録会半世紀」「大雨が降った後にだけ現れる幻の滝」「栽培・加工・国内でここだけ あざみ菜漬」「日本一の大碁盤」といった、独自ニュースを連発しています。

 住民の暮らし、思いに光を当てるような話題を丁寧に取り上げる。事柄を深く掘り下げる記事を充実させるというのが編集方針です。

週2回発行、「独自」を発掘

――文化通信社が2021年から地域紙の記事を募る「ふるさと新聞アワード」で、第1回が「手作りプールで県優勝 近所の企業に製造依頼」が優秀賞。第2回が「『五榜(ごぼう)の掲示』高札見つかる」が最優秀賞。第3回も最優秀賞を受賞しています。地域紙の中でも出色ですね。ところで、県紙の神戸新聞を意識しますか

 週2回発行ですし、同じ土俵ではないので競っている感覚はありません。地元の独自ニュースを発掘するのが丹波新聞の持ち味です。

 他の日刊紙と違い、基本モノクロ紙面なので、注目の掲載写真にはQRコードを付けて、読み取るとカラー写真が見られるようにしています。

――記者は転勤がない分、行政機関とのつながりが深くなると思いますが、権力チェックはどうでしょうか

 癒着はしない。行政とは距離感を保つ。指摘するべき問題は指摘しようという伝統を引き継いでいます。県道の峠の改良工事が遅れ、工期を延長して全面通行止めにしたのですが、周知する看板を設置するなどの対策を十分にしなかったため、迂回(うかい)路で渋滞が起こり、地区の狭い道路に車が入り込むなど沿線住民の生活に影響がでました。住民目線が県に欠けていました。3回取り上げました。

暗い話題は配信しない

――読者との双方向性を重視している企画が目立ちます。どんな工夫をしていますか

 毎月第1木曜日の紙面には、丹波こども新聞(タブロイド判4ページ)が折り込まれます。2市の小学校に1カ月1校の持ち回りで「くりたんBOX」という投書箱を置かせてもらっています。

 その投書から面白い話題をピックアップして、こども新聞で記事にしています。「高速道路大好き少年」「手話を勉強中」「応援しているよ!千代栄関」は、投書箱の中から生まれた記事です。

 丹波新聞を知ってもらい、将来の読者になってほしいとの思いからです。他にも「ケータイでパチリ」「ふるさとクイズ」「みんなの掲示板」と、読者を意識したコーナーは多いです。

――Yahoo!ニュースで丹波新聞の記事をよく見かけます。デジタル発信に注力していますか

 毎朝基本2本を配信しています。紙の読者が減るのではないかと危惧しましたが、それはなかったですね。

 暗い話題の配信はしないことにしています。地域の外へ丹波のPRになる内容を発信し、反響があればうれしい。地域貢献は地域紙の大切な役割と思っています。

 ただし、デジタルで情報を流すだけでは成り立ちません。課金する最善の方法を考える時期になってきています

「カメラマンも走って」

――一番印象に残った自分の書いた記事はどんな内容ですか

 駆け出し時代に、小学生から編集部に電話がありました。「卒業記念に児童がリレーしながらフルマラソンをするから、取材してほしい」。私の母校だったのですが、児童数が少ないから何度も走らなくてはいけない。そんな中、カメラを持つ私を見て「カメラマンも走って」と背中を押されて、一緒にリレーに参加し、全員で完走しました。「中学校に行っても頑張ってね」と添えてコラム欄で紹介したところ、卒業式で先生が読みあげてくれました。うれしかったですね。

――丹波新聞はどんな地域紙に向かっていくのでしょうか

 地域に必要とされる内容を追求して、地域に根付く新聞であり続けたいですね。

丹波新聞は創刊100周年

 丹波新聞社 本社・兵庫県丹波市柏原町。丹波篠山市に支局がある。発行部数1万2千部(うち全国郵送700部)。木曜(4ページ)、日曜(8ページ)の週2回発刊。記者は20~50歳代で編集部長以下8人。月額1450円(税込み)。

 丹波新聞社は創刊100周年を記念して講演会を開く。23日午後2時、丹波市柏原町の丹波の森公苑ホール。田ステ女創建の禅寺を継ぐ臨済宗妙心寺派不徹寺住職・松山照紀さんが、「死に支度できていますか~より良く生きるために~」と題して講演する。篠山神楽社中による石見神楽「大蛇(おろち)」の上演もある。事前申し込み不要。入場無料。

1924年 「丹陽新聞」発刊

1928年 小田嘉市郎が買収

1929年 「丹波新聞」と改題

1939年 多紀郡の新聞と統合

1941年 戦時体制のため休刊

1947年 タブロイド版で復刊

1949年 週1回から5日ごとの発刊に

1963年 週2回刊体制に

1989年 丹波カルチャーセンター発足

1998年 篠山支局を開設

1999年 丹波新聞会館が完成

2000年 篠山版を新設

2003年 文字を大字化

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