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小池百合子都知事が全国をリードした「コロナ休業協力金」 「2兆円」の効果はまだ見えない
◆CO2半減へ身近な住宅の屋根を活用
「住宅などの建物をサステナブル(持続可能)な性能に転換しなければならない」。2021年9月の都議会で小池知事は、太陽光パネル設置義務化の検討を始めると表明。22年12月には義務化を定めた改正環境確保条例が成立した。 都環境局によると、都内の二酸化炭素(CO2)排出量の7割が建物でのエネルギー使用による。19年度調査で、都内の建物のパネル設置割合はわずか4%。30年までに温室効果ガス排出量を00年比で50%削減する「カーボンハーフ」の達成に向け、身近な住宅の屋根を活用するのが狙いだ。◆売電などで家計にメリットと試算
家計面でのメリットも期待できるという。昨夏時点の都の試算では、一般的な4キロワットの太陽光パネルを付けると、電気代の差額や売電収入などで初期費用115万円を13年程度で回収可能。30年間で最大140万円の利益が出るという。 住宅メーカーの受け止めはどうか。ある大手の担当者は「家庭部門の脱炭素化には、省エネに加えて創エネも必要不可欠」として、都民の理解が進んでいくことを前提に義務化には前向きな姿勢だ。太陽光パネル設置義務化の制度に反対する立場から会見した杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹(左)ら=都庁で
◆直接の削減効果は10万トン止まり
一方、脱炭素化への効果を疑問視する声もある。カーボンハーフの実現には家庭部門で942万トンのCO2削減が必要。しかし、新築住宅への義務化による直接の削減効果は年10万トンにとどまる。都は義務化を受けて関心が高まることで、既存建物にもパネルの設置が進むと想定。これらを含めた削減効果は年43万トンを見込むが、都議からは「効果としては物足りないのでは」との声も上がる。 5月28日に制度反対の立場から会見した杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹らは、パネルが水没した際に感電を招く恐れがあるなどの問題を列挙。脱炭素について「原子力(発電所)を使うのが現実的な解だ」と述べた。◆パネルの寿命は20年から30年…その後は廃棄
太陽光パネル設置義務化について「都民、事業者の力を借りながら前に進めていきたい」と語る松本明子環境局長=都庁で
リサイクルの体制づくりも課題だ。パネルの寿命は20~30年ほどで、30年代後半にも「大量廃棄時代」が来るとの予測がある。住宅用のパネルは1件当たりの廃棄の量が少なく、収集や運搬が非効率なため、事業用と比べてリサイクル費用が割高になるとされる。 都は22年9月に解体業者やメーカーなどと協議会を設立し、パネルの取り外しや収集運搬のマニュアルを策定。事業者にリサイクルにかかる費用を補助するなどしている。 松本明子都環境局長は取材に「災害時に停電したときも一定の電力を確保できる」とパネルの利点を強調。「世界の目標である50年のゼロエミッション(CO2排出実質ゼロ)に向け、再エネの割合を高める意味でも非常に有効。都民、事業者の力を借りながら前に進めていきたい」と話した。太陽光パネル設置義務化 2025年4月から、都内の新築住宅などに太陽光パネル設置を義務付ける。一戸建てなど、延べ床面積2000平方メートル未満の建物は大手住宅メーカーが義務を負う。既存の建物は対象外。日当たりの悪い家や狭小住宅は設置対象から外すこともできる。都が22年5月から1カ月間行ったパブリックコメントには3779通の意見が寄せられ、賛成が56%、反対が41%だった。一戸建てへの義務化は全国初。
◇ 【検証小池都政】近づく東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)。2期8年にわたる小池都政の評価が争点となるのは間違いない。新型コロナウイルス禍、明治神宮外苑再開発への対応をはじめ、さまざまな行政課題と都政がどう向き合ってきたかを検証する。(随時掲載)
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