イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃が長期化する中、ある日本人女性が始めた演劇の記録上映会が全国に広がっている。

 渡辺真帆さん(31)。大学でアラビア語を学び、ガザと共にパレスチナを構成するヨルダン川西岸に1年間留学した。

 知らない相手でもすぐに家に招き入れ、お茶やごちそうを振る舞ってくれるパレスチナの人々。その温かさや美しい自然に魅了された。

 大学卒業後も通訳などでパレスチナに関わる中で出会ったのが、演劇「占領の囚人たち」。

 ユダヤ系イスラエル人の俳優・劇作家で、人権活動家でもあるエイナット・ヴァイツマンさんが、イスラエルの刑務所に収監されたパレスチナ人らへの聞き取りをもとに書いた劇だ。寝させずに自白を強要したり、屈辱的な身体検査を受けさせたりする実態を再現している。パレスチナ人は嫌疑がなかったり、微罪だったりしても政治犯として拘禁・収監されることがある。

 イスラエルで2019年に初演された後、東京でも23年に公演されることになり、渡辺さんが翻訳などを担当した。占領下の現実を知ってもらうため、公演前には日本人俳優とヨルダン川西岸を訪問した。

 「僕は60歳だけど30年近く収監されていたから(渡辺さんと)同い年だ」という元囚人や、「酸素を吸うことだけが占領下での唯一の自由」と語る現地の人の話を聞いた。

 東京公演が成功した8カ月後の昨年10月、イスラム組織ハマスとイスラエルの軍事衝突が始まった。パレスチナ支援の寄付などが日本でも広がる中、「衝突以前から続くイスラエルによるパレスチナ人への人権侵害も伝えたい」と東京公演の映像の上映を思いついた。

 記録用にたまたま撮っていた映像を、急きょ編集。今年2月に東京で上映会を開いた。

 以降、賛同した大学や個人、団体が全国各地で上演会を開催。これまでにオンラインを含め、20回近く上映されてきた。

 関西でコミュニティースペースの運営などをする山本和則さん(36)も5月に京都で上映会を開催した。「パレスチナの惨劇をニュースで見て、何か自分にできることはないかと考えた」という。

 この上映会に参加した女性は「パレスチナ問題については本などで勉強してきたが、劇を見てパレスチナの中にいる人の声と、これまで学んだことが重なり、衝撃を受けた」と話した。

 渡辺さんは今年6月から、国際協力NGO「日本国際ボランティアセンター」(東京都台東区)の現地駐在員としてパレスチナに向かう。

 ガザ保健省の発表では5月時点で3万6千人以上がガザで亡くなっている。渡辺さんはヨルダン川西岸に駐在し、ガザの緊急支援などをする予定だ。

 「パレスチナの人の声をたくさん聞いて、日本にも届けたい。劇が、占領の現状を知り、考え、行動するきっかけになれば」

 上映会は今後も東京や埼玉、福岡などで予定されている。今後の上映予定はX(旧ツイッター)(https://twitter.com/ousamakibunn/status/1778266237996519634)で見られる。上映に関する問い合わせは名取事務所(03・3428・8355)へ(甲斐江里子)

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